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優真が『神々の余興』に参加する意思を見せた瞬間、ハナは表情を曇らせた。
100年前、準決勝の舞台まで進みながら、時空神の眷族達に負かされたあの日、自分は今度こそ大地の女神様に優勝をプレゼントしてあげたいと考えていた。
だが、優真は優勝すると意気込んでいる。そしておそらく、彼が全力を出せば、上位を目指すことはそう難しくないだろう。しかし、彼は知らない。この催しが自分一人強ければ勝てるという簡単なものではないということを。
でも、それを彼に教えるかどうか迷う。
それは別に負けてもらいたいという理由からではない。ここで言えば、間違いなく優真が暴れるとわかっていたからだ。
だから、女神様達もパルシアスも、彼に『神々の余興』の正確なルールを教えていないのだ。
自分の本心は優真の優勝に協力したい。しかしそれは、ずっと傍に居てくれた大切な存在を裏切るということ。
どちらを取るかなんてそう簡単には選べない。
それくらい優真の存在はハナの心に影響を与えていた。
眷族筆頭として最後の使命を果たす。
あんなことが無ければ、自分は間違いなく最大限の力で女神様の為に動けた。
どんなにふざける時があっても、女神としてのこの方は凛々しく、そして慈悲深い。人間だけではなく、大地で暮らす全ての生物に慈愛の心で接する優しい女神。それが大地の女神。
自分の我が儘にも応え、いつだって親身になってくれた。
本当に大切な存在……だからこそ、最後の『神々の余興』くらい彼女の力になりたかった。
「じゃあハナさん、また後でね」
突然そう言われたことで、下を向いていたハナは顔を上げた。そこには手をこちらに振っている愛する者の姿と、彼の主神の姿があった。
「えっ……あぁ、うん。またね、ユウタン」
葛藤していたせいで、その間にあっていたであろう話をまったく聞いていなかったハナは、とりあえず笑顔で彼らに手を振った。
(そっか……私はまだ、ユウタンと一緒には帰れないんだった……)
消えていく彼の後ろ姿を哀しそうな目で見送ると、ハナは首を振って自分のやるべきことを思いだし、頭を切り換えた。
今自分がやるべきことは主神の大地の女神を本拠まで無事に送り届けることだ。
「それでは女神様、私達も帰りましょうか……」
「お待ちなさい」
そう言って、立ち上がろうとしたハナを呼び止めたのは時空神だった。




