39-16
時空神が指を鳴らした瞬間、俺達のいる空間が突然変化し始めた。先程まであった筈の出血した痕や舞い散った汗の痕は一瞬で消え去り、彼女の座っていた玉座以外に六つの椅子が現れた。
ひじ掛けもある一人用の白いソファーに時空神様の言葉で全員がそこに座り始める。
そして、時空神様も玉座に座り、皆を見渡している。
いつの間にか、自分の傷が治っていたり、脱ぎ捨てた筈のスーツまで身に着けていたりと訳のわからないことになっているせいで、頭が追い付かなかった。
「それでは本題に入りましょうか」
時空神様がそう言われたことで、混乱している俺は、とりあえずこの状況に関しての疑問を横に置いて、話を聞き漏らさないように集中した。
「まず、この世界に訪れたばかりの貴方は知らないでしょうが、『神々の余興』とは次の100年で、誰を先頭に世界の方針を決めるかという目的の下に始まった催しです。この『神々の余興』で優勝した者の主神には全ての神々に命令する権利が与えられます。……そして、もう一つ……それは眷族筆頭に与えられる権利です」
その眷族筆頭に与えられる権利という言葉に反応した優真を見て、時空神はふふっと小さく笑った。
「眷族筆頭に与えられる権利は、願いをなんでも一つ叶えてもらえるというものです。大金を得ることも女を侍らすことも可能……もちろん、人を生き返らせることもね」
その最後の言葉で優真の意思は固まった。何故ならば、時空神がこの方法が唯一ホムラを生き返らせる方法だとおっしゃったからだ。
「ふふ……どうやら答えは決まったようですね」
優真の表情を見た時空神が微笑みながらそう言うと、優真は頷いた。
「俺をそれに参加させてください」
本来であれば、主神の子どもを司る女神様に確認する必要があるのだろう。しかし、彼女は以前、俺の不参加を渋々了承していた。本音では出てもらいたかったのだろうが、俺の意思を尊重した為、諦めたのだろう。
実際今も、俺の隣で驚きと嬉しさが混ざったような複雑な顔になっている。
「ほ……本当にいいんだね?」
女神様の言葉に俺は頷く。
「もちろん。ホムラを生き返らせる為には優勝するのが絶対条件なんだろう? なら、やってみせるさ」
もちろん、参加する相手をなめきっている訳じゃない。先程俺が負けたパルシアスも先程の口調から絶対に参加するだろう。そして、ネビアのような強い連中がここにいる二人以外に7人いる。一筋縄じゃいかないだろう。
優真が子どもを司る女神に出るという旨を伝えた瞬間、子どもを司る女神は突然目から涙をポロポロと流し始めた。
「……ありがとう……本当にありがとう」
狼狽える優真に涙を流しながら感謝の言葉を伝える女神の姿を、時空神は慈悲深き眼差しで見始める。
「頼もしいですね、貴女の眷族は」
「……ええ……私の自慢の眷族です」
涙を拭った女神は、時空神に向かって笑顔でそう言うのであった。




