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愉快と表現すべき表情を見せたエパルの言葉に、時空神以外の全員が驚いた顔を向けた。
「妾にはこの者の実力を測りきることは出来んらしい。悔しいが、後はお主に譲るとしようかの」
「へ~……エパルが譲るなんて珍しい……前はガキ相手じゃ殴る気力も起きないって言った相手を使うなって言われていた本気で半殺しにしたくせに……」
「ふっ……それとこれとは話が別じゃ……普通、子どもとはなぶる対象であっても、護る対象ではないんだがのぉ~」
最後の言葉を楽しそうに呟きながら、エパルはパルシアスと入れ替わり、時空神の傍に立った。
「さて、君の要望通り次の試験相手はこの僕だ」
「……別にお前を望んだつもりは無いんだが……」
そう言いながらも、優真は近付いてくるパルシアスを見て込み上げてくる笑みを抑えられないでいた。
前は倒せる筈がないと思っていたというのに、今は面白そうな相手にしか見えない。
生死をかけた本気の戦いでないのが残念でならないと無自覚に思ってしまう程、優真はこれから起こる戦闘に高揚していた。
「さて、エパルと戦って疲れてるだろうし……僕も特殊能力は無しでいこう。君も使えないみたいだしね」
「そうか? まぁ、こっちとしてはどっちでも構わないんだが……肉体だけの勝負ってのも面白そうだ、な!」
優真が床を蹴るのと同時に、パルシアスも床を蹴った。
そして、全員の視界に再び二人の姿が映ると、二人は互いの顔を殴っていた。
頬に激しい痛みを感じる最中、自分の拳にも確かな手応えを感じる。そんな状況にパルシアスは興奮していた。
(はは……マジかこいつ! 身体能力が僕と互角……いや、少し上回られてるのか? ……やべぇ……楽しくなって来やがった!!)
互いに距離を取る優真とパルシアス。
スーツの上着とネクタイを脱ぎ捨てた優真を見ながら、パルシアスは自分の口元についた血を腕で拭い、愉しそうな笑みが止まらないのを自覚する。
二人を止める者はおらず、二人は再び床を蹴った。
直後に繰り広げられる殴る蹴るの応酬。しかし、お互いに攻撃をまともに食らえば、ただではすまないとわかっている。攻撃の手は緩めず、同時に防御面にも意識を割いている。
最初の一撃以降、攻撃が相手の体を捉えることはなかった。
そして、1時間後に時空神が二人を止めた時、パルシアスだけが足の裏を床に着けていた。




