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「これは……さすがに予想外でしたね……」
時空神は目の前で起こっている現実を見て、そう呟いた。
そこに映る光景は、膝に手を置いて息切れをする少女と、汗一つかいていない青年が向き合っている光景だった。
「……はい。僕もユウマがここまで成長しているとは思ってもみませんでした」
優真は少女の短い手足によって繰り出される素早い連撃を顔色一つ変えずに避けてみせる。紙一重のように思える避けかたではあったが、誰がどう見ても優真には余裕があるように思えた。
(……やっぱり気のせいじゃないな……【勇気】が使えねぇや……)
そんなことを考えながらも優真はその攻撃を軽々と避けていた。
優真がその事実に気付いたのは、かなり早い段階だった。
最初は久しぶり過ぎて自分がミスったのかもしれないと判断したが、徐々に自分が制限を受けているのだと確認することができた。
使えなくなっているのは特殊能力だけで、身体能力は変わらない。2ヶ月前の優真であれば、とっくに倒れていただろうが、優真は特殊能力を使えないという状況下で1ヶ月半も神の修行に耐え続けてきたのだ。
死をもって体感した痛みは、状況判断や、一発一発の集中力を高め、こうして時空神の眷族から一発ももらわないという異常事態を引き起こす。
「パルシアスからの報告で、あの子は特殊能力を使うと異常な強さを発揮するって聞いて能力を使えないようにしてみたのですけど……そこまで関係無さそうですね……」
「いえ、むしろ『無い』という条件に慣れたんだと思います。麒麟様は僕の時も特殊能力を使えなくしてましたから」
「そうみたいね。……でも、強くなっただけに残念だわ。彼の攻撃を見せてもらえないなんて……」
時空神が最後に呟いたその言葉が、パルシアスには何を意味するのかがわからなかった。しかし、すぐに気付いた。
優真がここまでずっと攻撃する体勢に移っていないことに。
「……さっきから何のつもりじゃ? 妾を弄んどるのか?」
いきなり攻撃を止めた少女が、優真にそう問い掛けると、優真は構えていた手を下ろした。
「弄ぶなんて……子どもに言われるとグサッてくるね。……そんなつもりは無いよ」
苦笑した優真が真剣な眼差しを見せた瞬間、エパルは悪寒を感じた。
「じゃあ先程から何故攻撃をせぬ! 妾なんて攻撃する価値も無いと言いたいのか!!」
「う~ん……近いけど、違うかな……」
「それならば何故!」
「君の見た目が子どもだからだよ」
「なっ!?」
優真の発言に驚きを隠せないでいる少女を見ながら、優真は続けた。
「俺にとって、子どもとは護るべき存在であって、手を上げる対象ではない。これは子どもを司る女神様の眷族筆頭としてではなく、俺自身の考えだ。だから、俺はどんな理由があろうと君を攻撃するつもりはない!」
優真の言葉は、エパルにとって初めて聞いた意見だった。だからこそ、それが心の底から放たれた本音であることに呆れたような表情を見せた。
「……変な奴じゃのぉ~……じゃが、気にいった! パルシアス! 交代じゃ!!」




