39-12
(……そういや前にもこんなことがあったな……)
目の前でやる気満々の少女を見て、優真は小さく溜め息を吐いた。
「……本当にやんなきゃダメ?」
「なんじゃ? 妾が怖いのか?」
首を傾げてそんなことを聞き始める彼女に、優真は頭が痛くなっていくのを感じた。
そもそも、昨日の夜に女神様が時空神様の元へ行くなら正装で行けなんて言うから、今の格好はダークスーツだ。
こんな状態で戦えって言われても無茶としか思えないし、何より時空神様の眷族というだけで弱いとは思えない。見た目は子どもだが、おそらく年はハナさんと同じ感じで見た目とは違うのだろう。
(……そういやメイデンさんと戦うことになった時も、ハナさんが審判をしてたな……)
目の端にいるハナさんに目を向けると、偶然彼女と目が合い、彼女はこちらに微笑んできた。
(そもそもここで勝たないと目的も果たせないし、ハナさんに格好悪いところを見せるのも嫌だし……やるしかないのか……)
「負ける覚悟は決まったようじゃな」
優真が仕方なくといった風に、戦闘する意思を向けるとエパルは口元に愉しそうな笑みを刻んだ。
「そんなつもりは無いけどね」
「ぬかせ」
優真が少女に微笑みを向けると、次の瞬間、エパルの姿が目の前から消えた。
試合開始の合図はなされていない。しかし、戸惑った様子を見せたのはハナだけだった。
優真は、いきなり右手を前に出した。その直後に、エパルが全員の前に出現し、優真の頭の横で一瞬だけ停止した。
涼しい顔でエパルの回し蹴りを止めてみせた優真。だが、すぐにエパルが下がったことで彼女を捕まえることは出来なかった。
「ぬぬ……今のを止めるか? しかも右手だけで……」
「まぁ、子どもって不意打ちとか好きだし想定内だよ。むしろ、村では毎日のように受けてたからな。……この程度で俺を倒せると思ってるんだったら、俺をなめすぎだよ」
優真がその時発した威圧的なオーラは、エパルが武者震いするには充分なものだった。それを見た瞬間、時空神は感心した様子を見せるが、ハナだけは違った。
まだ自分と彼が出会って半年も経っていない筈だ。確かに、彼のオーラを見て、その原石のでかさに驚き、それを魅力的に感じたのは事実だ。
だが、それでもここまでだとは思っていなかった。
この時見せた優真のオーラは、冗談抜きで自分を越えていた。




