39-8
「ねぇねぇ優真君、さっきから一人で何してるんだい?」
「……一人?」
俺が隣の不思議な少女を見ていると、こちらを覗くように女神様が乗り出してきた。
しかし、どうやら女神様には、この少女が見えていないようだ。
「いやいや、何言ってるんですか。ここに女の子がいるじゃないですか……」
俺は少女の存在を伝えるが、女神様は首を傾げている。どうやら俺をからかっているんじゃなく本当に見えていない様子だった。周りを見れば、ハナさんは目があった瞬間、顔を赤らめるだけで少女に気付いているかどうかわからない。ただ、位置的に少女の存在は見える筈だ。この少女が見えるかどうか聞こうと思った瞬間、大地の女神様がにやついているのを見て、聞くのを止めた。
そうだ。この少女は初めに言っていた。
自分が見えているかどうかを。
要するに見えないだけで存在はしているのだ。
そう確信した瞬間、背中に寒気が走った。
「あらあら、こんなところにいたのね」
その声は後ろから聞こえてきたが、俺は振り返らなかった。いや、振り返れなかった。
見なくてもわかる。
後ろにいる存在こそが時空神様だということを。
声が聞こえた直後、体が流れるように誰も座っていない玉座に向かって平伏した。体が操られたとかそんな簡単な話じゃない。
本能がこの方は自分が敵わない存在だと認めた。
横目で他の3人も俺と同じような行動をとっているのが見えた。そして、そんな俺の横を時空神様と思われる存在は歩いていき、誰も座っていない玉座に座った。
「お顔をおあげなさい」
許可をいただいたことで、俺はその存在のお顔を拝見した。
見た目は、20後半から30前半と思われる若々しくも落ち着きのある女性だった。透き通るような水色の髪は長く、藍色の目は誰か一人ではなく全員を見ている。
「まったく……何処にもいないと思ったらこんなところでまた遊んでたのね」
ふんわりとした感じの声で、目を閉じた時空神はいきなりそんなことを言い始めた。
だが、それが誰に向けられたものか優真と大地の女神だけにはわかっていた。
しかし、すぐに他の二人も気付いた。何故なら、突然優真の隣に見知らぬ少女が姿を現したからだ。
その少女はどことなく嬉しそうだった。
「うぬ! 久しぶりの客人を驚かそうと思ってここにおったのだ!」
「あらあら……悪い子ね~」
時空神が目を細く開きながら放ったのは、言葉だけじゃなかった。全身から血の気が抜けるような神威がその幼き見た目の少女に向けられ、当の本人も楽しそうな顔がひきつっていた。
「私は今日だけは絶対にするなと申し付けた筈ですが……聞いていなかったのですか?」
「う……うぬ……申し訳ないのだ」
少女がそう謝ると、細目だった時空神はいきなり笑顔になって、手を胸の前で合わせた。
「わかればいいのですよ。さぁ、エパルもこちらにいらっしゃい。これから大事なお話を始めますよ」




