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優真が聖域に帰った日から2日の月日が過ぎた。修行の疲れを癒す為にもう少しゆっくりしたいと考えていた優真だったが、世界はそんな優真の気持ちを汲んでくれない。
緊張した面持ちで、優真は気持ちを落ち着かせるために大きく深呼吸をした。しかし、自分の高まる心臓の音は治まるつもりが無いらしい。
「優真が緊張してる姿見てると、高校の頃を思い出すよ~」
太陽が真上で燦然と輝く中で、いきなり肩に手を置かれた優真はそちらの方を見た。すると、万里華が笑顔でこちらの方を見ていた。
「高校生の頃って……なんかあったっけ?」
「あったよ~! 修学旅行の日に優真を迎えに行ったら3時間も前に家を出たっておばさん言ってたじゃん。学校行ったら目の下にくまが出来てたし……あの頃も今日みたいに眠れてなかったんじゃないの?」
「おまっ! あん時は先生が1分でも遅刻したら学校で留守番って言ったからであって、別に緊張してた訳じゃ……」
「わかってる、わかってる。すっごく楽しみにしてたもんね~、修学旅行!」
自分の黒歴史をばらされて慌てる優真に黒髪の女性は笑った顔を見せ続けている。
(俺の緊張をほぐす為だったんだろうけど……皆の前でその話はしないで欲しかった……素直に感謝しづらい……)
複雑な気分になりながらも、周りの様子を観察してみれば、全員が先程の話にピンと来ていない様子だった。それはそうだろう。万里華と優真以外にとってその話は異世界の話なのだから。
「実際楽しかったよね~、修学旅行!」
「そうだな」
優真が小さく笑いながらそう答えたのを聞いて、万里華は口元に笑みを見せた。
「また一緒に旅行行こうね。今度はホムラちゃんを含めたこの皆で、ね!」
万里華が突然そんなことを言いだしたことで優真は万里華を驚きの表情で見る。
そこにはニッシッシと笑う万里華の姿があった。
「……そうだな。その為にもまずは今日、あの方に会わなくちゃな……」
万里華に向かってそう答えた数分後、優真達一行は、聖域を出た。




