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条件が揃わないと最強になれない男は、保育士になりたかった!  作者: 鉄火市
39章:実習生、創世神の一角と出会う
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39-2


 ハルマハラは安楽椅子に座りながら、晴れた空の下、庭先にある案山子を見続けていた。

 案山子は傷だらけになっており、ところどころ直した痕が見受けられる。

「……年とは取りたくないものですね……体が昔みたいに言うことを聞いてくれません……。数ヶ月前まで楽しい時を過ごしていたというのに……今はこうして日の光を浴び続けることが私の日課に成り果てました……やはり、年を取らない体は便利ですか?」

「…………」

 フードを被った男は、何も答えない。腕を組みながら、壁に寄りかかって静かにハルマハラの話を聞いていた。

 その様子を尻目に見たハルマハラの表情に怒りの色は無い。それどころか安らかな笑顔を見せている。

「……村の皆さんも、左腕を無くした役立たずを使ってくれなくてね……だが、今日は君が来てくれて助かったよ。君が来てくれたお陰で今日はいつもより楽しい時間が過ごせそうだ……」

「……そうか。それで? その腕はどうした? お前ならそんなミスは犯さんだろ?」

 体を寄りかからせたままの体勢で、顔の向きすら変えずに、ローブの男はハルマハラにそう聞いた。

 その言葉に、ハルマハラは少しだけ嬉しそうに口元を緩めた。

「過大評価ですよ。……まぁ、未来ある若者と老い先短い老いぼれの左腕……この程度で済んだだけで良かった。なにせ相手はSランクモンスターでしたからね」

「……例の霧亀の事件か……ここらで暴れたと聞いていたが……まさか、お前まで巻き込まれたのか……」

「ええ……しかしながら面白いものが見られましたよ。そのSランクモンスターを私の助けた青年が粉砕した光景……目を疑いましたよ……あの日の衝撃は一生忘れられないでしょうね……」

「Sランクモンスターを粉砕? 偶然勝ったとかじゃないのか?」

「ええ……おそらく、昔の貴方と同じくらいの実力でしたよ。戦闘技術は残念なものでしたが、特殊能力は素晴らしいものでした。……そんな彼に数ヶ月の間だけでも戦い方や技術を教えた。貴方達とパーティーを組んでいたあの時間と同じくらい私にとって大切な思い出です」

「…………そうか……お前にとっては、今もあの時が良い思い出か……」

「当然です。S級冒険者の貴方と組んで世界を駆けていたあの頃は……本当に楽しかった…………それだけに、あの事件が無ければと……私は思いますよ」

「……俺もだ」

 ローブの男が少しの間隔を開けてそう言った瞬間、穏やかな雰囲気だったハルマハラが急に目を見開いて後ろを振り返った。しかし、そこに男の姿は既に無かった。

「…………いったい……どういう意味なのでしょうか?」

 安楽椅子に再び腰を深く埋めたハルマハラは、青い空を見上げながら、そう呟いた。


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