39-1
鬱蒼と繁る草木の中で、その男は立っていた。
身には黒いローブを纏い、顔を見せないようにフードを目深に被っている。
明らかに怪しい見た目の男は、目の前に映った家を感慨深そうに見た。
「……元気にしているだろうか……」
そう呟いた男は、家の扉に手を掛けようとしたが、急にその手を止めた。
合わせる顔がない。今更、どの面下げて彼に会えばいいのだろうか?
「おいあんた、そこで何してんだ?」
自分の中で葛藤を繰り返していると、急に後ろから声が掛けられた。ゆっくりと振り返れば、そこには茶髪の男が立っていた。手には白い布を持ち、上半身はたくましい肉付きで、何も着けていない。だが、服は薪の束と共に抱えている。
質問にどう答えるべきか悩んでいると、彼が持っている斧をこちらに向け始めた。
まさか、何もしていないのに武器を構えられるとは思っていなかった。
「ここにいる人を襲うってんなら容赦はしないぞ?」
向けられた殺気は人間にしてはたいしたものだと思うが、怯む程のものではない。
時間をかけすぎて家主に姿を見られては、元も子もない。
(……ここは、素早く終わらせるとしよう……)
そう考え、自分の腰にさしていた剣の柄を触ろうとした瞬間、背中を向けていた扉の開く音がした。
「二人とも、武器から手を離しなさい」
懐かしい声に、フードを被った男は声の聞こえた方に振り返った。
そこには、右手に細い剣を握ってこちらに向ける片腕の老人が立っていた。
「ハルマハラさん! こいつ、さっきから家の前でうろちょろしてたんだ! もしかしたら村の子どもを拐いに来た帝国兵士の連中かもしれない!」
「子どもを拐うって……でしたらここではなく村の子達がいる建物の方に行かれると思うのですが……」
「……それもそっか……じゃあいったい何で……」
「……おそらく私に顔を合わせるのが気まずかっただけでしょう。あれほど気にしなくていいと言ったのに……こんなところでは寒いでしょう。さぁさ、家にお上がりなさい」
頷きも首を横に振るような行動も見せないローブの男に、ハルマハラは優しく家に迎え入れようとするが、斧を地面に突き刺したライアンが二人を呼び止めた。
「ちょっと待ってくれ! そいつはハルマハラさんの知り合いか?」
その問いに彼は頷く。
「ええ、昔の冒険者パーティーのメンバーですよ」




