38-3
~1時間程前~
冷気を感じて起きた俺は、布団を被ろうとしたところで、布団が無いことに気付いて重い瞼を開けて上半身を起こした。
次の瞬間、そこに広がる光景を見て俺は絶句した。
そこは以前、麒麟の爺さんと初めて会った沼の畔だったのだ。
焦げた跡がついた大地や、戦闘によって折れた幹の太い樹木……それらを見た瞬間、俺は自分がまだ寝ぼけているんじゃないかと思ってしまった。
早く帰りたいという欲求が、最後に見た光景を夢で見せているのだ。そう判断して、俺は再び芝生に寝転がり夢の世界に入ろうとした。
しかし、俺は眠ることが出来なかった。
近くで誰かがすすり泣く声がしたからだ。
少女の泣き声、そう判断した俺は再び起き上がって、泣き声の聞こえる方に目を向けた。
そこには木の近くでこちらに背中を向けて体育座りをしているドルチェが自分の腕に顔を埋めていた。
彼女だと判断出来た理由は、青いパジャマを着ていたからだ。
この状況が飲み込めない俺ではあったが、子どもが泣いているという状況を見れば、するべきことは自ずと見えてくる。
「……なにかあった?」
寝ている場所から移動した俺は、しゃがみながらそう聞いた。
いきなり声をかけられて驚いた様子のドルチェは、涙目になりながら後ろを振り返ると、自分の腕で涙を拭って、ぎこちない笑みをこちらに向けてきた。
「おめでとう、おじちゃん。麒麟様の試練を全部クリアしたおじちゃんは自由だよ……もう……うるさいあたち達のお世話もしなくて……大丈夫……だよ……」
涙を我慢しながら震えた声でそう語るドルチェを見て、俺は自分の思うがままに彼女を抱き寄せた。
ドルチェは俺の行動に対して、混乱した様子を見せていたが、すぐに大声で泣き始めた。




