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「……じゃから、小僧にはこれでも感謝しとるんじゃ。こうしてまた、この子の元気な姿が見られた。それがわしにはとても嬉しいことなんじゃ……」
近くに寄ったファルナの頭を撫でている爺さんの話は、俺の考えが間違いだったんだと思い知らされるには充分なものだった。
別にそれで、この爺さんに対する怒りが全て消えたかと言われれば、そうではないと答えるしかないが、それでも、俺が思っていたような神様じゃないと思えて、少しだけ嬉しかった。
「……別に……俺はただ、苦しそうな子どもがいたから少しでも彼女の救いになれればと手を差し伸べただけです。俺がして貰ったようにね……」
爺さんの言葉にそう答えながら、俺は日本での出来事を思い出していた。
あの時、保育士の人に手を引っ張られていなかったら、今の俺はない。
絶望に打ちのめされても、それでもきっかけ次第で自分を変えることが出来る。
だからこそ、ファルナを見捨てるなんて俺の選択肢にはなかった。
「だから、爺さんに感謝して貰う理由なんて無いです。この子を助けたのは、俺達の意思ですから」
「ふっ……それならわしも思い残すことはないな……わしの可愛い子どもをこれからもよろしく頼むぞ」
「お任せください」
そう答えた後は、特に会話もなく、感謝と別れの言葉をイアロ、スー、ドルチェの3人と爺さんに言おうと思っていた俺だったが、4つの試練をたった一人で全クリさせられた疲労が残っているからか、結局皆と話すことなく、深い眠りに落ちた。
◆ ◆ ◆
「……本当にこれで良かったの?」
青いパジャマを着ている少女は、白髪の老人に向かってそんなことを聞き始めた。彼女の足元には、4人の男女が倒れていた。
「構わぬ。起きた時に驚いた顔を見るのも面白そうだ…………そんな寂しい顔をするな……いずれまた会える……」
今にも泣き出してしまいそうな少女の頭に老人はしわくちゃになった手を乗せた。
「嫌だよ……あたち……お別れしたくないよ……」
「仕方ないことなんじゃ。わしもまだ一緒にいたかったが、約束は約束……わしにはどうすることも出来ん……」
優しそうな顔でそう言われ、青髪の少女は目に涙を溜めながら、老人に抱きついた。




