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12月28日、小鳥の囀りが聞こえるのどかな野山に大きな音が轟く。
その音が生じた場所には、一人の青年が立っており、彼の前には粉々に砕け散った壁だったものが落ちている。
青年はその残骸を見ても顔色一つ変えず、右手に持った刀を鞘に収めて、目的地に向かって歩を進め始めた。
「ふむ……ついに完成させたか……」
山頂に立っていた老人は、青年の表情を見てそう告げるが、青年はそれに応えるかのように腰の鞘に収めていた刀を引き抜く。
その姿を見た老人は口元に楽しそうな笑みを見せ、己の姿を変化させていった。
それは4足の獣だった。
狼のような頭には1本の角があり、その体躯は軽く10メートルを越えていた。
「多少本気を出しても構わんよな?」
雷を纏い始めた麒麟は、そう告げながら、青年目掛けて突っ込んだ。
しかし、青年は動じることなく刀を横に構えた。
「十華剣式、最終奥義……」
そして、勝負は一瞬だった。
二人はすれ違い、お互いに前だけ見る状態だった。
「まさか……【ブースト】を使用せずにそこまでの強さを発揮するとはな……」
そう言った直後、雷を纏った麒麟の体から大量の血が吹き出し、脚から崩れ落ちた。
血の付着した刀を横に振って血を落とした青年は刀を鞘に収めると後ろを振り返って一礼した。
◆ ◆ ◆
優真は礼をした後、姿が無くなった麒麟の元に行った。
そこには芝生の上で胡座をかいている老人しかいなかった。
「大丈夫ですか?」
「それは斬った相手にかける言葉じゃないと思うがな……」
明らかに機嫌が悪そうな老人に優真は苦笑いを見せた。
「そう拗ねないでくださいよ。俺だって一度勝ったくらいで貴方を越えたなんて思っちゃいないんですから」
「当たり前じゃ! わしをたった一回真っ正面から打ち破ったくらいで調子に乗られてたまるか! あれじゃぞ! わしが本気を出せば今の小僧なんぞ相手にもならんからな!!」
(めんどくせぇ……というか最初の威厳があった爺さんとは同一人物に思えないくらい、キャラブレしてんな……)
そんなことを思っている間も爺さんからの自慢話は続き、終わる頃には空も真っ暗になっていた。




