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直径2メートルはありそうな黒い渦から現れたのは、黒に近い赤髪の男だった。隣に立つ青年とは異なり、筋肉質な肉体と背中に背負う大鎌が特徴的なその男は、怒っているのが雰囲気で伝わってきた。
「お前が今回の情報提供者だな?」
その威圧的な声に、カルバチョフは恐怖を感じながらも強気な態度を崩そうとはしなかった。
「そ……そうだ! 貴様らがしくじったせいでこんな目にあったんだぞ! どう責任をーー」
刹那、喚き散らすカルバチョフの左腕が紅い液体を撒き散らしながら空中に舞った。
すぐにくる痛みにカルバチョフは悲鳴を上げることしか出来ない。
右手で斬られた左腕の出血を押さえようとするが、全くうまくいかない。
「な……なにを……」
「囀ずるな」
その威圧的な言葉は、カルバチョフの口を黙らせた。次に許可なく喋れば、今度は問答無用で殺すと男の鋭い目が語ってくるのだ。
「貴様が正確な情報をよこさなかったせいで、こっちは時空神に今回の件がばれたのだ! お陰で追放され、こっちの計画まで狂わされたのだぞ? どう落とし前をつけてくれる?」
「こ……こっちだって貴様らが使えんせいで……王位もついてきてくれる者も全て失ったのだ……。そうだ……俺は悪くない……周りが無能で使えなかったから……俺は嵌められたんだ……全部全部……俺に才能を与えてくれなかった神が……全部悪い……」
「あらあら、恐怖で壊れちゃいましたかね?」
右手で頭を押さえ始めたカルバチョフの顔を見て、執事の青年は楽しそうにそう聞いた。だが、反対に赤髪の男は面白くなさそうだった。
「……それで? この壊れた男は連れていくのか?」
執事の青年は隣の男にそう聞かれた瞬間、「うーん、そうですね~」と言いながら目を閉じ、なにかを考えるような仕草を見せた。そして、その閉じていた目を少しだけ開き、口元をにやつかせた。
「やはり消しましょう……この男にもはや利用価値はありません。確かに貴方の存在がばれたのは計算外でしたが……当初の目的はとっくに達成されています。貴方が目立ってくれたお陰で私は私の仕事が果たせたことですし……もはやこんなところに用はありません……好きにしてくださって結構ですよ」
「そうか……なら、新しくもらった力で一暴れするとしますか!!」
狂暴な笑みを顔に浮かべた男は、背中にある大鎌を両手で握る。その鎌は橙色に輝き始める。
「程々にしておいてくださいね。子どもを司る女神の眷族はあの方の……」
「わかっとるさ!! だから居ないこの時間を選んだんだろうが!!」
その言葉を放つと同時に、男は溜めていた力を解放した。
この日、地下で大規模な爆発が発生した。しかし、奇跡的に地上の被害はなく、たった一人の罪人と数人の見張りだけが犠牲になった。




