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護衛の兵士に守られながら、カルバチョフは清潔な廊下を歩いていた。
そんな彼の表情がいきなり驚きに支配された。
目を見開き、目の前の現実がまるで受け入れられないといった風だ。
彼の震える指が差した先には、崩れ落ちた扉の残骸と開放された通路があった。
「ど……どういうことだ? ……な……なぜ……こんなことをする必要があったのだ?」
ぶつぶつと何かを呟き始めたカルバチョフは気付かなかった。執事の青年が彼に冷たい視線を向けていることに……。
「……それでは皇王様がお待ちです。そろそろ参りましょう。それから護衛のお二方はここからの立ち入りを禁じさせていただきます」
執事の青年がそう言うと、二人の護衛もそれがわかっていたかのように、一歩下がった。
そして、執事の青年とカルバチョフの二人はその道を歩き始めた。
「……!?」
王族直通通路を歩いていたカルバチョフは、目の前に広がる光景を見て息を飲んだ。
そこには先程までの清潔な廊下とは一転した光景が広がっていた。
まるで何かが飛び散ったかのように黒くなった壁や床、そして、抉られた壁や斬りつけられた跡。見ていなくてもわかった。あの日ここで戦闘が起こったことを。
「な……なんだこれは? 約束していた条件とは違う……」
震えた声でそう言ったカルバチョフだったが、次の瞬間、いきなり腹を殴打された感触を感じ、勢いのまま廊下を転がっていった。
「ぐふっ!? ぐっ……うぅ……ど……どういうことだカルアーデ……」
起き上がったカルバチョフは、自分がいた場所を一点に見続けており、かすれた声でそこにいた男に向かってそう言った。
そこに立っていた青年は銀髪の青年で、普段の優しそうな表情は怒りで塗りつぶされていた。
「……あんたには幻滅したよ……」
普段はおとなしい筈の息子がいきなり暴力を振るってきたことに驚きが隠せない様子のカルバチョフだったが、痛みでまともに動くこともままならなかった。
「……よろしかったのですか? 皇王様のもとに連れていってから、それ相応の処罰を下すという話だったのでは?」
「確かにそういう話でしたが、陛下を危険に晒すような真似は出来ません。なにより、自分の身内が女神様の眷族筆頭様に剣を向けたことが我慢なりません!」
「……そういうことでしたら、私も見なかったことにしましょう」
「ありがとうございます」
恭しく頭を下げた執事の青年にお礼を言ったカルアーデは、強く一歩を踏み出すと、カルバチョフの視界から一瞬で姿を消してみせた。
その直後に放たれた回し蹴りは、カルバチョフの頭を捉えて、通路の壁にカルバチョフの体を叩きつけた。




