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戦った痕跡が伺える町にそびえ立つ一際大きな城。そこに、1台の馬車が到着した。
馬車から出てきたのは、ふくよかな体型の男性だった。彼は上層階級だと一目でわかる見た目の格好をしており、その老けた表情には、苛立ちが伺えた。
そんな彼の前に黒い執事服の青年が立って、彼に向かって恭しくお辞儀し始めた。
「お帰りなさいませ、カルバチョフ殿下。無事のご帰還ーー」
「母上殿は無事なのか?」
執事の青年が挨拶しているにも関わらず、男はその言葉を遮って自分の聞きたいことを聞き始めた。だが、執事の青年はそれに少しの動揺も見せず、また、その笑顔を絶やすことなく彼の質問に答えた。
「はい。眷族筆頭様が賊を追い払ってくださったお陰で、皇王様とご子息のカルアーデ殿下はご無事です」
そう答えながら、執事の青年は男の様子から目を離さなかった。二人の無事という情報を知った瞬間、その顔に苛立ちがわずかに見えた。
「ならばさっさと案内しろ! その為のお前だろ!」
「かしこまりました。それでは王族直通通路をお使い致しますので、鍵をお預かりしてもよろしいでしょうか?」
「……断る!」
一瞬だけ見せた動揺の直後、男は声を荒げた。だが、青年は顔色を変えない。
「どうしてでしょう?」
「そんなもの貴様ごときに答える必要はない! さっさとカルアーデから鍵を借りてこんか!!」
「……かしこまりました。では、今すぐ持ってこさせましょう」
そう言った執事の青年は、近くにいた使用人の女性に何かを耳打ちした。その女性は執事の青年に向かって頷くと、第1皇子に向かって頭を下げることなく何処かへ行ってしまった。
数分後に先程の女性は手に鍵を持って戻ってきた。女性は執事の青年に鍵を渡して耳打ちした後、再び何処かに行ってしまった。
「それでは参りましょう」
鍵をポケットにしまった執事の青年はさわやかな笑みを顔に貼り付け、廊下を歩き始めた。




