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後ろに立っていた擬人化している麒麟の姿を見て、優真は溜め息を吐いた。
「……いきなり背後に立って驚かすのやめてもらえません? てか心読まんでくださいよ……」
「はっ、読まずともわかるわ。覚悟を決めた男の顔をしておるなぁ……あの者達が小僧の守りたい者達か?」
いきなりの質問に優真は戸惑いを見せると、麒麟から視線を外し、先程までシルヴィ達がいた場所を見始める。
「……はい、彼女達も俺の大切な人です。だから、この先の人生で彼女達を失わなくて済むようにしたい。俺の周りに手を出そうと考える奴が出ないようにしたい。その為にも俺は強くならなくちゃいけないんです」
優真の眼差しはいなくなってしまった少女達の面影を見続けている。そして、哀しみという感情を見せるその目を麒麟に向けた。
「彼女達が俺を信じて待ってくれているから、きつくて心が折れそうな時も自分を見失わずに済んでるんです。ホムラを生き返らせるという目的を見失わずに済んでいるんです。……女神様にはああ言いましたが、俺は自分が強くなる為ならどんな修行だってこなしてみせますよ」
そう言うと優真は体を黙って聞いている麒麟の方へと向け、頭を深々と下げた。
「だからお願いします! 俺を強くしてください!! 俺はっ……後1ヶ月で時空神様に認められるくらいの強さが欲しいんです!!」
自分が図々しいのは百も承知だ。
だが、俺にはもう時間がない。無さすぎるのだ。それなのに、今回の試練で自分がまだまだだということを思い知らされた。一つたりとも自分だけでクリア出来ていない。
惜しかったとか、元々子ども達専用に造られていたとかそんなのは関係ない。要するに、この子達よりも俺が強ければ、この子達が居なくても俺一人で全てをクリア出来た筈だ。
それなのに、傷だらけになって、最後は子どもの手を借りて山を登った。
そんな自分が……情けない。
「……元よりそのつもりじゃった」
ようやく口を開いた麒麟がそう言うと優真が顔を上げて喜びの感情を表情で表していた。
「当然、小僧の主神に言ったやつよりもきついものとなるじゃろう……じゃが、逃げ出さなければ、小僧の目的に大きく近付けるような力が手に入ることだろう……」
「ありがとうございます!」
「……じゃが、今日はもう休め。修行は明日からじゃ」
「そう言わずに今からでも! 善は急げとも言いますし、彼女達のお陰でだいぶ回復しましたし!」
「ならぬ……ドルチェ」
「はいは~い!」
麒麟がため息混じりにドルチェの名を呼んだ後、優真の視界が歪む。
そして、優真はそのまま地面に頬をつける。
「まったく……絶対安静だと言われとったじゃろうが……張り切るのも良いが、怪我を治すのも小僧の仕事じゃぞ……」
麒麟が溜め息混じりにそう言うと、優真の体を掴みあげ、小屋へと通じるゲートをつくり、そこに優真を放りこんだ。
こうして、優真達の長い1日が終わった。




