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「わざと蜂の仕掛けを起動させ、自ら蜂の毒に侵されたんだな? イアロの能力で絶対に助かると確信を得ていたから。俺が全部倒したと思っていたのに、一匹取り逃していたのは、始めっから、お前が蜂を捕らえていたからか?」
俺はそのことに確信を得ていた。昔の俺だったなら一匹や二匹取り逃して、子ども達を危険にさらすこともあり得ただろう。
だが、眷族筆頭としての俺なら、例え能力が使えないとしても、子どもに降りかかる危険を見逃すはずがない。自分から蜂の毒を取り入れたのであれば、目の前に大量の蜂がいる状況でそっちにまで気が回らなかったという状況も説明できる。
ドルチェは、俺の言葉に先程よりも大きな驚きを見せていた。
「……知ってたの?」
「正確には万里華に説教された後だけどな。万里華に自分を傷つけるとか、命懸けって言葉を聞かされてなかったら気付いてなかったよ」
ドルチェは俺から視線を外して再び子ども達の方を見た。いや、どうやら、3人ではなく子ども達と遊んでいる万里華の方を見ているようだ。
そして、ドルチェは小さく溜め息を吐いた。
「……えへへ……ばれちゃった……」
小さく笑ったドルチェは落ち込んだように小声でそんなことを言い始めた。
「なんでそんなことした?」
「おじちゃんが悪い奴かどうか試してたの!」
「まぁ……やっぱりそうだよな……爺さんからの依頼か?」
その質問にドルチェは少しの間が空いた後、小さく頷いた。
「あたちはねぇ……イアロちゃんとスーちゃんが麒麟様と直接会った1ヶ月よりも前……3年くらい前から麒麟様と会ってたんだ。だからね、自分の特殊能力や神獣化についても詳しく知ってたんだよ……。それでね、麒麟様があたちにお願いしてきたのはね、おじちゃんがどういう奴かあたちの視点から判断することと、イアロちゃんとスーちゃんに神獣化を発動させることだよ」
そう言いながら見せたドルチェの表情は、とても子どもとは思えない程、落ち着いているように見えた。




