36-29
「ありがとね、ユリスティナ。お陰でシェスカを怒らせずにすんだよ」
シェスカがファルナのところに向かったのを見送ってから、俺は傍にいたユリスティナにお礼を言った。すると、彼女は頬を赤らめてもじもじし始めた。
「いえ……わたくしはただ……当たり前のことをしたまでです。ユウマ様にお礼を言われるようなことはしておりません」
「そう言うなって。俺は素直に助かったよ。こんな状態でシェスカと遊んだら絶対ぶっ倒れるもん。」
「そ……そう言っていただけると……その……嬉しいです。ユウマ様のお役にたてて良かったです」
そう言ったユリスティナだったが、彼女は急に何かを察したように後退りしながら俺のもとから離れた。
「久しぶりだね、優真……」
「……万里華……」
ユリスティナが向けていた視線の方角に目を向けると、そこには万里華の姿があった。
彼女の表情からは怒りの感情が読み取れる。だが、それも仕方ないのだろう。俺は皆の元から黙って離れた。守ると約束しておきながら、彼女達の傍に居られなかった。怒るのは当然だと思う。
万里華は真剣な眼差しで俺を見つめると、彼女は地面に座っている俺の前に正座した。長年の付き合いでわかる。彼女の目は何かを我慢しているのか辛そうだ。
「……歯を食いしばっててね……」
そんなことを言われて、何がなんだかわからなくなった直後、俺の頬に痛みが走った。
横に向けられた顔を彼女の方に向けると、さっきよりも辛そうな顔で、涙を流していた。
皮膚に感じた痛みよりも心が痛みを訴えてくる。
「……なに考えてんのよ! こっちがどれだけ心配したか……わかってんの!!」
「ごめん……皆に相談もせずにそっちを離れて……」
「違う!!」
涙声で俺を怒鳴る万里華に俺は謝ることしかできなかった。だが、万里華はいきなりそれを否定してくる。
「そうじゃないの!! 優真が自分の意思関係なく強制的に連れていかれたことくらい女神様から説明を受けたから知ってるよ!! 今更そんなことはどうでもいいの!!」
てっきり万里華は聖域の入口から勝手に離れた件で、怒っているんだと思っていた。だから叩かれたんだと思っていた。
でも、彼女は違うと言う。
いくら考えたってそれ以外に彼女が怒っている理由がわからない。
「……第4試練でなんであんなことしたの?」
「だ……第4試練?」
「そう……なんでこんなボロボロになるまでやってんのよ……」
「いや……それは……ファルナ達がお腹を空かせながらもここまで頑張ってくれたんだ……俺が全力でやるのは……」
「それで死ぬ気だったの?」
「さすがにそこまでは……」
「朱雀族の子がいなかったらとっくに死んでたじゃない!! あの子が回復できないほど消耗していたらどうするつもりだったのよ!! もっと自分のことを考えてよ!! もっと自分の命を大切にしてよ!! 優真が死んじゃったら私はどうしたらいいのよ!!」
万里華は呆然として動けなくなった俺の体を何度も何度も叩き続けた。涙を流しながら自分の心配をしてくれる彼女の存在が、俺にはとても愛おしく思えた。




