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「やはりか……あれは悪あがきではなかったのだな……」
老人の冷静になった声に、少女は頷いて肯定の意を示した。
「優真君の目的は、もちろん一人で出来るなら一人で壊すことだった。でも優真君は、前の試練でボロボロになってる自分じゃ、それが難しいことを最初の一撃で覚ったんだ。だが、食事が出来ないと知っているこの状況で長期戦は愚策。だからこそ、戦闘能力が高いスーちゃんとファルナちゃんを温存した。準備が整うその時まで、彼女達の力を温存して、自分のありったけを壁の一点に集中させる……そして、ようやく見えた兆し、優真君はそこを攻撃するようドルチェちゃんに言った。だからこそ、優真君達は、最後の試練を突破出来たんだよ」
「ふっ……思った以上に面白き小僧だ……。わしの予想をことごとく越えてきおる。……それでは行くとするか」
「褒美を渡しにかい?」
「うむ……今夜だけは特別に入ることを許可しよう。今回はあの子達にも褒美をやらんといかんからな」
「そっか……きっと彼女達も喜ぶよ」
そう言いながら、少女はその見た目からは想像もつかないような慈悲深き笑みを浮かべていた。
◆ ◆ ◆
「悪いな、ファルナ……」
自分よりもかなり身長が低いファルナに腕を貸してもらいながら、優真はなんとか歩いていた。
体のあちこちに怪我があるからか、その状態で山登りをするのは明らかに辛そうだった。
「僕は怒ってるんだからね! お兄さん、僕の話聞いてくれなかったし!」
「話? ファルナって俺になんか話してたっけ?」
本当にわかってなさそうな顔を向ける優真に、ファルナは膨らんだ頬と涙目を向ける。そして、ファルナは優真の無防備な腹部に頭突きをかますのであった。
「おじさん達仲良いですね!」
「……仲いいの? あれ」
少し後ろを歩いていたイアロの感想に隣を歩くスーチェがそう答えた。その直後にかなり先を歩いていたドルチェが後ろを振り返った。
「ねぇねぇ! 皆遅いよ! 早く来ないと景品は全部あたちがもらっちゃうよ!!」
「……さっきまで寝てた癖に……偉そう……」
「そう言わないですよ。ボク達二人もおじさんに運んでもらってたですから、人のこと言えないです。皆仲良くです」
「……わかった」
そうは答えても、全く納得していなさそうなスーチェは、渋々登り始めるのであった。




