36-19
(…………あれ? 俺……気を失ってたのか? 確か……まだ試練中だったよな……)
重い瞼を開けると、そこには白い天井が広がっていた。
優真の意識は徐々に覚醒していき、すぐに起き上がろうとしたが、体に何かが乗っているような感覚を感じ、顔だけで自分の体を見た。
(……どうりで重いと思ったよ……)
後頭部を再び床につけた優真は顔に笑みを浮かべながら、そんなことを心の中で呟いた。
優真の体の上には、ファルナとスーチェの二人が仲良さそうに寝ていた。
「ダメってボクはちゃんと言ったんですよ?」
寝ている少女に配慮されたその囁くような声は耳元で聞こえ、優真はそちらに視線を向けた。
そこには、少し申し訳なさそうな顔で優真の様子を伺っているイアロの姿があった。
「イアロちゃんか……怪我はない?」
「ボクよりもおじさんの方がいっぱい怪我してたです」
「そっか……ありがとな、治療してくれて……」
「いえ……一応、ボクに出来る範囲で治療はしたですけど、これ以上はボクが死んじゃうから……ごめんなさい……」
イアロは涙を流して謝っているが、優真にはそんな彼を責める気にはなれなかったし、責める気もなかった。
「いいよ。イアロが死んじゃったら俺の頑張りが無意味になっちゃうからな……それに、これだけ動けるようになれば充分だ……本当にありがとう」
優真はイアロを不安にさせまいと、優しい笑みを彼に向ける。だが、優真自身は自分の状態に歯噛みしていた。自分の状態が思った以上に深刻なのだ。
まず第1に手がうまく使えない。感覚が麻痺しており、うまく剣を握れないと思われる。イアロの治療のお陰で、数時間もあれば完全に回復するだろうが、その間は威力が大幅に落ちるだろう。
次に、体を起こそうとした時、背中に激痛が走った。背中を痛めたとなれば、満足な動きは望めない。
他にも色々と傷や痛みはあるが、1番の問題点は血を流し過ぎたことだろう。
自分の倒れていた場所には大量の血が流れた跡が見える。頭がくらくらするし、最悪な状況だろう。
だが、生きている。
こうして喋ることも可能だ。
きっとイアロだけのお陰じゃない。
ファルナやスーも、自分に出来ることをしたからこそ、俺はこうして生きているんだ。
「ありがとな……3人とも……」
起き上がることの出来ない優真は、優しい笑みをファルナとスーチェの二人に向けながら、二人の頭を撫でた。




