36-13
「……俺なんかの隣でいいのか?」
「お兄さんの隣がいい……」
その言葉に優真は目を見開くが、すぐに優しそうな微笑みを見せた。
「ありがとう、ファルナ……」
彼女の優しさに感謝の言葉を優真が伝えた瞬間、ファルナは何かを思い付いたかのように、いきなり立ち上がった。
「お兄さん元気無いんだよね? それなら僕、いいもの持ってるよ!」
そう言ったファルナは、不自然に膨らんだポケットから赤い何かを優真の前に差し出してきた。
それは、どっからどう見ても林檎だった。
「…………え? えええええええええ!!?」
いきなり見せられた林檎に優真は驚きの声を上げてしまうが、それは仕方ないものと言えるだろう。試練の内容は林檎を食べることであり、その林檎を探すなんて不可能だと思ったからこそ優真は諦めかけていたのだ。
それなのに、その林檎が目の前にある。
「ど……どこで!! どこで見つけた!!」
優真の大声に目を白黒させているファルナ。優真はそんな彼女の肩を掴んで激しく揺すった。
「ど……どこって……おてて洗ってたらいい匂いして……気付いたら手元に林檎があって、足下に変なのいたの……」
目を回したファルナがそう言ったことで、優真は彼女の体をおもいっきり抱き締めた。
◆ ◆ ◆
第2試練の間は、予想外な幕引きになった。
あの後、スーに見張りを頼んでファルナと共に林檎のあった場所に向かった。
彼女自身は道を明確に覚えてはいなかったが、人の通った跡が見つかったため、案外早く見つけられた。
道中は矢が飛んでくる罠が仕掛けられており、通る前から100は軽く越えた数の矢が地面に突き刺さっていた。
林檎があったと思われる場所には気を失っている怪鳥が倒れていた。おそらく、門番的な存在だろう。
隣で美味しそうに林檎を咀嚼しているファルナだが、こんな可愛らしい見た目でありながら、猛々しい虎に変化することが出来る。おそろしく動きが速い彼女には、この程度の罠は話にもならないのだろう。俺から離れていた10分弱でそれを達成してみせるのだから大したものだ。
……しかし、第2試練の場所からここまで、軽く見積もっても3キロはあったと思うんだが…………この子の嗅覚と脚力はどうやらすごい才能のようだ。
こうして俺達は、ファルナのお陰で第2試練を突破した。




