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スーの表情は、悔しさと涙を流す程の悲しみが込められた表情だった。
スーは、ファルナと俺が話している間もずっと歩みを止めていなかった。それでも、ようやく俺と同じところに来たところだ。だからこそ、彼女の流す涙もはっきりと見てとれた。
「……まぁ、そう言うなって。スーだってここまで頑張ってきたんだぞ?」
「で……でも! お兄さんの背中にスーちゃんが背負われてなかったら、お兄さんだって蜂を見逃さずに済んだんじゃないの? 疲れてたのだって、本当はスーちゃんを背負ってたからなんでしょ! スーちゃんがいなかったらーー」
「ファルナ!」
ファルナは俺が彼女を諌める声でびくついた。その表情には、一瞬確かに怯えが見えた。
「ドルチェちゃんが怪我をしたのは、俺の把握ミスだ。イアロちゃんが倒れるほど頑張ったのだって、俺が頼りなかったからだ。全部俺がしっかりしていたらなんとかなっていたことばかりだ。この子は何も悪くないよ」
そう言って、俺は俯くスーの頭に手を置いた。
「それに、スーちゃんだって頑張っているのは本当だ。ここまで1時間以上歩き続けているのに、ドルチェちゃんのことを投げ出したりしなかったし、足腰がしっかりしているからかドルチェちゃんの体は安定してる……普通の子だったらとっくに投げ出すようなことなのに……スーちゃんはとても忍耐強くしてくれた。すっごく助かってるよ」
スーの頭を撫でながら、俺はここまでの彼女の頑張りをファルナに伝えた。
優しく思いやりのある子で、俺は本当にスーのことを見てこなかったんだと、改めて思い知らされた。
「スーちゃんが遅いのは、背中のドルチェちゃんに気を配っているからだ。だから、頑張ってる子を責めないでやってくれ。俺はファルナにそういう子になってもらいたくないよ……」
今度はファルナの頭を撫でるつもりで手を伸ばすが、ファルナはその手を弾いた。
「……お兄さんはスーちゃんの肩を持つんだね」
「そんなことないよ。ファルナにだってたくさん感謝してるよ」
「…………ほんと?」
「ああ、ファルナがここまで頑張って歩いてくれたからこそ、俺達はここまで進んでこれたし、ファルナが警戒を頑張ってくれてるから、俺達は安心して前に進める。いや~ファルナがいてくれて助かるな~~!!」
少し大袈裟にそう言うと、恥ずかしそうに俯いたファルナが下ろしていた俺の手を掴んで自分の頭に置いた。その対応に、俺は彼女に何度も感謝の気持ちを伝えながら、少しの間撫で続けた。




