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36-9


 絶望的な状態だったにもかかわらず、イアロが力を発揮した瞬間、ドルチェの傷はなんとかなった。

 麒麟の爺さんからは何も聞かされていないが、おそらくイアロが特化した力は治癒能力だろうな。

 毒や傷を回復させてしまう驚異的な治癒能力。そのうえ炎を扱うとなると、本当に恐ろしい子だ。こんな可愛らしい見た目でありながら、あれほどの潜在的な力を秘めている。

 もし……あの時のファルナみたいに暴走したら、特殊能力を使えない今の俺に、この子達を止めることが出来るのだろうか?

「無理……だろうな……」

 だが、今はその最悪の事態を考えている場合じゃない。先程、もう一度巻物を読んでみたところ、とんでもないことが書かれていた。

『試練終了まで一切の食事を禁じる』

(あのくそジジイ、とんでもない項目書きやがって……食事盛りの子どもを飯抜きなんて鬼畜か?)

 そんなことを考えた瞬間、横になっていたスーがゆったりと体を起こした。

「おじしゃん……今、麒麟様を悪く言ったでしょ……」

「……寝ててもそういうのを察知出来るんだな……」

 寝起きの彼女は鋭くなった目を向けてくるが、そんなものこの3週間で何度も向けられたものだ。

 慣れればたいしたことはない。

「麒麟様を悪く言うの良くない」

「ハイハイ……だいたいそう言うなら、その麒麟の爺さんからやれって言われている試練を君もちゃんとやったらどうだい?」

 自分の大人げない対応に嫌気がさす。しかし、この子は俺を敵視している。しかも、日本の子どもが向ける可愛らしいものなんかじゃない。本気で殺してきそうな敵意を向けてくる。そのうえ、その能力が備わっているのであれば、自分のことで手一杯の俺に彼女と仲良くするなんて無理だ。

 何度か歩み寄っても言うこと聞いてくれないし、ここまでだってほとんど俺がおぶってきたのに感謝の気持ちを感じない。正直、この子が一番面倒だと思う。

「……わかった……」

「……何が?」

 いきなりの言葉に俺が疑問を抱くと、スーはドルチェの体を背負い始めた。

「……私が今から頑張る。……だから、麒麟様を悪く言わないで……」

 スーの言葉に、俺は驚きが隠せなかった。

 今まで寝ること以外にやる気を見出ださない少女だと思っていた。麒麟の爺さんに対して、悪感情を抱けば殺る気は見せるが、それでもやる気は見せない。

 てっきり忠誠心で動いているのだとばかり思っていたが、単純に彼女は麒麟の爺さんが大好きなだけのようだ。

 彼女の子どもらしい一面が見れて、つい顔がにやけてしまう。

「わかったよ。それじゃあドルチェが目を覚ますまで任せてもいいか?」

「……うん……」

 彼女がそう答えたことで、俺達は第2試練の場に向かった。


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