36-8
「おじさん、退いてくださいです……」
毒が異様なスピードで回っているのがドルチェの様子でわかり、諦めるしかない。そう思ってしまった俺の背後で異様なオーラを感じとった。
そこには、蜂が出た途端に怯え始め、今の今まで震えていたはずのイアロが立っていた。
そんなイアロの姿を徐々に光が覆い始め、輝く1羽の赤い鳥がこの空間に降臨した。
動物園で見た孔雀のような大きさではあるが、その姿は神々しかった。
こちらに歩いてくる朱雀の姿になったイアロは、俺の方を見ずにドルチェの方へと真っ直ぐ近寄った。既に虫の息になっていたドルチェを見て、イアロの鋭い目が光を帯びた。
「おじさん……下がっててくださいです」
そう言われたことで、俺は訳がわからないまま立ち上がってファルナの方に近付いた。その直後、イアロが直径2メートルはあるであろう翼を広げ始めた。
「不死鳥の炎」
イアロの翼がドルチェに触れると、ドルチェの体が燃え始めた。
その現象に頭が追い付かない。なんでいきなりドルチェの体を燃やし始めたのかが理解出来ない。しかしながら、そんなことに思考を割いている余裕は、再び出てきた蜂の存在をファルナが教えてくれたことでなくなってしまう。
「ちっ……こんな時に~っ!!」
怒りで技を放とうとするが、背後からものすごい速さの炎が蜂の群れに着弾した。
後ろを振り返ると、空中で翼を羽ばたかせているイアロとその回りに浮かぶ炎の玉が視界に入った。
「よくもボクの友達に……絶対許さないです……」
怒りがひしひしと伝わってくるイアロの雰囲気に、俺は声をかけられなかった。その後に何度か蜂の攻撃は来たが、それらは全て、イアロによって焼き尽くされた。
試練が始まってから1時間くらい経った頃、試練終了のアナウンスが聞こえてきた。
そのアナウンスでイアロは力尽きるように落ちてくるが、それを俺はなんなく受け止めた。ファルナが神獣化すれば、いつも服が破れていた。しかし、イアロの服は人間だった時のものが再生されていた。
そのイアロはと言うと、死んだように眠っている。そして、燃やされたはずのドルチェも無傷で安らかな寝息を立てている。どうやらイアロの炎には毒を無効化する力があり、なおかつ回復させることもできるらしい。
ファルナの傍に寝かせたスーも合わせると3人がこの時点で動けない状態になった。
「イアロのお陰でなんとかなったな……とはいえこの状態じゃ先には進めんし、3人が目を覚ますまでここで待機だな」
こうして、俺達は第1の試練を突破した。




