36-1
「次!! お願いします!!」
青年の声が辺り一帯に響きわたる。
その青年は肩で息をしており、立っているのがやっとの状態だった。しかし、その目は死んでいない。相手を睨み付けるその黒い瞳には、確かな信念と怒りが込められていた。
立っているのがやっとの足に力を込め、青年は地面を蹴った。既に動き回る程の余力は無いため、一直線に駆ける。
「まだ遅いな……」
人を怯ませる覇気が込められた声に青年は屈しない。むしろ、加速したようにも思えた。だが、そんな彼に容赦無く雷撃が放たれた。
雷撃は青年のいた場所を的確に捉え、そこには真っ黒になった大地しか存在しない。
「……また死んだか……成長せん奴だ……」
振り向きざまにそう言った神獣は、その場にとどまる意味を見いだせず、帰ろうと歩を進めた。
その時だった。
「生きてる相手に背中を見せるなんて、いささか無用心すぎるんじゃないですか?」
青年の声が聞こえたことで、驚きを露にした神獣は急いで振り返るが、次の瞬間、「菊一文字」という言葉が耳に届き、彼の体躯から鮮血を流させた。
「小僧がっ……ようやく避けれるようになったか……」
地に体をつけられた神獣は自分の体から流れる血を見て、そう呟いた。その表情は痛みで歪んではいたものの、どこか嬉しそうだった。
◆ ◆ ◆
「…………か……勝ったぁぁぁぁぁぁあ!!!」
倒れてしまった麒麟の姿を見て、優真はおもいっきりガッツポーズした。
麒麟が油断して背中を見せたからこそうまくいったのだと優真自身も理解していたが、優真が喜んでいる理由は麒麟を攻撃したことじゃない。今まで何百何千と自分の身を穿ったあの雷撃を初めてかわせたのだ。これが嬉しくない筈がない。
「やっとだ……やっとこの地獄から解放される……この20日間、朝は子ども達の世話をして、昼間は麒麟に殺されまくり、夜はたった一人で自由過ぎる子ども達の世話……よく頑張った俺! ここまでよく投げ出さずに頑張った!! 皆~! 俺やったよ~!!」
涙を流しながら、帰還できることを喜ぶ優真だったが、そんな彼の後ろで何かが立ち上がった音が聞こえた。
「何を喜んでおる。修行はまだ終わらんぞ」
それは優真にとって、最高の気分から絶望に落とされる程の力を持った言葉だった。




