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何枚もあったバスタオルを脱衣場の床に敷き、イアロをそこに寝かせた。当然、翼を下にしないよううつ伏せの状態だ。
「それでイアロちゃん、こういう時はどうしたらいいかお母さんとかから聞いてない?」
「わがんない……」
涙声で絶望的なことを言ってくるイアロに俺は頭を抱えるしかなかった。
日本でも、何かしらの持病を抱えている子どもは多い。保育士はその情報を親から聞き対処することもあるが、子ども自身が、もしもの時のための薬や道具を持たされていることもある。
だが、この場には泣いている子どもと俺しかいない。
朱雀族の特徴を知らない俺には、こうなった時の対処方がわからない。
だから、イアロの記憶や知識に頼ることしか出来なかった。
(……今も泣き続けてるイアロには悪いが、間違った方法で悪化させる方がまずい……。頼りのミハエラさんにも連絡がつかねぇし、麒麟の爺さんもどっかに行ったと聞くし……)
「とりあえずタオルで水滴を拭った方が……」
そう思ってアイテムボックスの中身を確認すると、一番新しい場所に見覚えのある道具が入れられていた。
もしやと思い、入れた覚えのないその道具を取り出してみると、案の定、思った通りのものが入っていた。
それは、コードの無いドライヤーと乾いたタオル、それから1枚のメモだった。
「…………本当に頼りになるよミハエラさん。これでなんとかなる!!」
そのメモを一読した俺は、痛みで泣いているイアロの方に向かった。
彼女に翼の部分だけでいいからと、前をタオルで隠した状態になってもらい、翼を露出してもらう。
メモによると朱雀族の翼は、彼らにとっての誇りであり、他種族に触らせることはないという。慎重に行う必要があり、下手したら暴れるのだそうだ。
綺麗な羽1本1本についた水滴を乾いたタオルに染み込ませていく。水滴を拭うのではなく、水滴に触れることが重要で、水滴が広がったら痛みが強くなると教えられた。持ち前の集中力で、1滴1滴慎重にタオルで水滴を無くしていく。
タオルを当てる度に呻いていたイアロだったが、水滴を取っていくと傷みが和らいでいっているのか、泣き声を発さなくなっていた。
メモによると、朱雀族の大人であれば水を耐えることもできるが、子どもには無理なんだそうだ。だが、さっきの事故みたいに水を浴びることだってある。その場合は大人が翼で温風を発生させ、それを当てることで乾かしていくのだそうだ。
その為のドライヤーである。
俺は手に持ったドライヤーとタオルを使用し、彼女の水滴を取っていくのであった。




