35-13
悲鳴が聞こえた瞬間、面倒な状況を静観していた俺の意識は切り替わった。
音が聞こえた方向では、自分の猫耳を押さえているファルナとうずくまって泣いているイアロ、それから水を掛け合っていたスーとドルチェがその行為を止めて、イアロの方を見る姿だった。
距離は風呂から出て体を洗いに行ったファルナが一番奥におり、ドルチェのせいで緩んだからと、タオルを巻き直すために湯船から出た直後でこっちに背中を向けているイアロが蹲っている。そして湯船で立っているスーとドルチェがその近くにいた。
何が起こったかはわからなかったが、イアロに何かが起こったというのは一目瞭然だった。
「大丈夫かイアロちゃん! いったい何が起こったんだ?」
急いで湯船から出て、イアロに何があったのかを尋ねるが、彼女は泣きじゃくるだけで、何も教えてはくれない。
実際、俺もじっくりと見ていた訳じゃないが、万が一のことも考え、彼女達から視線を離さぬよう角に座って入っていた。悲鳴が上がる前だって、スーとドルチェがお湯を掛け合っていたこと以外、特に何もなかったはずだ。
転んだりして頭を打ったのであれば、すぐに気付いていた。でも、何かが起こった。痛がり方が尋常じゃないことから、嘘にはとても思えない。
「……ぁねが……いたぃ」
「姉? ……羽か! 羽に痛みがあるのか?」
その言葉にイアロは頷いた。これで少しは進展したように思えたが、異種族のイアロにある翼は俺にはない。だが、とりあえず治療するべき箇所がわかったのであれば、とりあえずこの場にいるべきではないだろう。
「とりあえず俺はイアロちゃんの治療をしてくる。ファルナ達もさっさとあがりなさい……どうした、ファルナ?」
俺はイアロを横に抱えながら、近くに並んだ3人にそう言うが、ファルナが何かを言いたそうにしていた。
「ねぇねぇお兄さん、関係あるかわかんないけど、さっきイアロちゃんにお湯がかかってたよ?」
「お湯?」
「うん、それで泣いてたよ」
ファルナの動体視力は素晴らしいものだ。俺がどんなに速い動きをしても、彼女の目は追い付いてくる。
そんな彼女が、イアロはお湯に当たったから泣き始めたと言った。
「もしかして……翼にお湯が当たったのか?」
イアロは過剰なくらいお湯に怯えていた。翼が濡れないよう特別なタオルで体を巻いていたくらいだ。羽が濡れた瞬間、激痛が走ったとなれば、その過剰な対応にも納得がいく。ドルチェがタオルを引っ張ったことで、タオルに隙間が空き、そこにお湯がかけられたことで、イアロの翼が濡れたのだろう。かなり当てずっぽうだが、犯人探しがしたい訳ではないのでこの際、そこはどうでも良かった。
「おじさん、いだいよぉおお!」
「悪いけど、もう少しだけ我慢してくれ……」
腕の中でこちらに泣きすがる少女を傷みから解放する。それが俺の最優先事項であり、やるべきことなのだ。
この場には俺しかいない。だからこそ、彼女を救えるのは俺だけなのだ。




