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「いやぁ……悪口なんて言ってないんだけど……」
確かに眠そうな子どもを酷使している爺さんを良い目では見ていないが、そこまで殺気を向けられるようなものではないと思う。
「……ん……ならいい……」
鋭い目付きの少女は、再び目を閉じると、立ったまま寝始めた。……なんだこの子?
「その子はスーちゃんです。相手の悪意を過敏に察知することが出来るらしいので、スーちゃんの前では麒麟様の悪口は思わない方がいいと思いますです」
なるほど。それでさっき反応したのか。いやまぁ、この子がさっさと名前を教えてくれれば爺さんを悪く言うつもりはなかったと思うんだが……それはまぁ言わぬが華だろう。
「……というか、あの爺さんに散々殺されたんだから、悪口の一つや二つくらい俺に言う権利はあると思うんだけどな……」
「はい。ボクも悪口くらいなら見逃すつもりです。でも……」
「……でも?」
「万が一おじさんが、麒麟様を陥れようとしたなら、ボク達も容赦はしない……です」
笑顔の中に潜む彼女達の実力。なるほど……ようやくわかった。こいつら3人とも、ファルナと同格……要するにあの爺さんの眷族候補か。
◆ ◆ ◆
この世界の四神は、日本で聞いたものとはかなり異なるもののようだ。
一番の違いはなんと言っても、実在するということだろう。
見た目10歳くらいの少女達の姿は、どう見ても獣とは程遠い。だが、神獣化という力を使えば、白い猫耳と尻尾がトレンドマークの可愛らしい少女もたちまち獰猛な白い虎になってしまう。
ただ、彼女達4人は正式に四神という存在ではないらしい。
麒麟に認められてようやく四神になれるのだが、その方針が少し変わったらしい。
原因はファルナの件だった。
彼女の故郷は、人間達によって奴隷狩りが行われた。
その結果、それまで南大陸の四方を護っていた一角が崩され、南大陸の環境は激変した。
地は荒れ、海が荒れ、数年後には作物の取れなくなった死の大陸となるのが目に見えていた。だが、人間が多い環境に移動することはできない。
だから麒麟は対策を取った。




