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「……要するに、天使みたいなものなの?」
彼女達の格好は、以前会ったミハエラさんと同じ白い服だった。そのうえ、他の二人は違うが、目の前にいる赤髪少女の背中には赤くて小さな翼が生えているのだ。
だが、赤髪少女はポカンとした顔を見せた直後、ハッと何かに気付いたらしく、「違いますよ~」と笑顔で教えてくれた。
「ボクは麒麟様に仕えている神獣族のイアロです。朱雀族なので、一族み~んな翼が生えてるんです」
「神獣族……しかも今度は朱雀か……ってことは、他の二人も神獣族なの?」
俺が他の二人に視線を向けて聞くと、青髪少女が前に出た。
「そうだよ~! あたちはね、ドルチェ! 青龍族のドルチェといえば、知らない人はいないよ~」
「へ~……そんなにすごい子なの?」
「え~と……青龍族の中では確かに知らない人はいないと思いますです。ただ……ここに来るまでボクは知らなかったです……」
俺がイアロと名乗った赤髪少女に聞くと、彼女はこっそりとその情報を教えてくれた。
青髪少女の特徴は、額に小さな角が2本あるところだろう。自己紹介で青龍族と言われるまで、鬼なんじゃないかと思っている自分もいたくらいだ。
「イアロちゃんにドルチェちゃんね……それで? 君はなんてお名前なのかな?」
立ち上がった俺は、暗い緑色の髪をボサボサにした少女の元まで近付き、膝に手を当てて、もう一人の少女に目線を合わせて聞いてみた。だが、その少女は答えてくれない。
何故か枕を両手で抱えており、ものすごく眠そうにしている。うつらうつらと頭を揺らしてはいるが、かろうじて寝ていない様子だ。
だが、ここで焦るのは駄目だ。大人の焦りは子どもに多かれ少なかれ怯えを与える。自分のせいで苛立たせていると思われては、それこそ良い結果には繋がらない。
ここはじっと我慢だ。そう……きっとこの子は眠いんだ。
3人共ファルナと同じくらいだろうし……10歳くらいの子どもがこんな暗い時間に駆り出されているこの環境が悪いんだ。あのクソジジイが子どもを酷使するのが間違ってるんだ。
「……ねぇおじしゃん……」
10分くらい黙っていた口をようやく開いた少女に、俺はようやく希望が見えた。おじさんと呼ばれるのは辛いが、この際、そこは妥協しよう。
「なんだい?」
「いくら麒麟様のお客様だからって、麒麟様の悪口は許さないよ」
「……ふぇ?」
閉じていた目が急に開かれ、その緑色の瞳に睨まれた瞬間、全身に寒気が走った。




