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「うがぁあああ!!?」
閃光が空間を支配した直後、野山に大きな雷鳴と共に男の絶叫が響いた。
野山で黒焦げになった男は、膝をつき、そのまま倒れ伏した。その直後、彼の体から焦げたあとがなくなる。そして、男は荒い呼吸を繰り返しながら、地面に手をついて起き上がった。
「……この爺さん……容赦無さすぎだろ!」
目の前でこちらを見下す神獣を睨み付けるが、眼力で敵う相手だとは思えず、悪態をつきながら立つことしか出来なかった。
もう何回死んだか覚えていない。
まだ初日だというのに、軽く3桁は殺されただろう。50を越えた辺りで数えるのが馬鹿馬鹿しくなった。
死んだ痛みも苦しみだって当然ある。だが、ほとんどの死が即死だった。
それなのに、生き返った直後にすぐ立てとか言ってきやがる。
虫けらのように殺され続けるのが嫌なら避ければいいと簡単に言ってくるが、麒麟は、雷を放ってくるのだ。あんな速すぎる攻撃をどうやって避けろというのだ!
しかも、邪魔だからとかいう理由で、この空間じゃ俺の特殊能力は発動しないように設定したらしい。俺がどれだけ【勇気】に頼ってばかりだったのかを痛感させられた。
(……雷なんてゲームみたいに結構簡単に避けれるだろ。とか楽観視していた最初の俺を殴りたい)
「この程度、自力で避けられるようにならねば、ファミルアーテの連中に勝つなど夢のまた夢じゃぞ?」
俺が焦点の定まらない目を麒麟の方に向けると、いきなりそんなことを言ってきた。
「……別に……あん人達と戦うつもりはねぇし……俺の目的は……時空神……様と……謁見をするためだし……」
「時空神のやつと謁見?」
「……そうだ……俺は……強くなって時空神様と会うんだ!! ホムラを生き返らせてもらうために!!」
手に持つ刀を構え直して、最後の力を振り絞って地を蹴った。
だが、突っ込む気力しかない俺には、全体攻撃を避けることすら出来ず、再び意識が闇の中に誘われた。
「……ここまでかのぉ……普通の眷族なら10回も死ねば泣きごと言って逃げ出すというのに……一度もわしに背中を向けんかったな……」
生き返らせたというのに動かなくなってしまった優真を前足で突っついた神獣は、溜め息を吐いてから老人の姿に戻った。
「A級程度のモンスター相手にいきがっとったせいか、思った以上に弱かったが……案外面白い時間になりそうじゃな……」
満足そうな笑みでそう言った人間姿の麒麟は、倒れた状態の優真を放置して、何処かに行ってしまった。




