35-3
「……ようやく目を覚ましたようじゃな……」
戸口から入ってきたのは白髪の爺さんだった。白い髭が長いその老人からは只者でない雰囲気が漂っていた。
それは、俺を警戒させるには十分な代物だった。
「……あんた何者だ? ここに俺を閉じ込めて……いったいどういうつもりだ!!」
「ふむ……まだ混乱しているようじゃな……まずは座りたまえ」
こちらに近付いてきた爺さんは、そのまま囲炉裏の周りに敷いてあった座布団に座った。
「おい、質問に答えろ! ここは何処なんだ!! こっちは急いで戻らないとーー」
「わしが『座れ』と言ったのが聞こえなかったのか?」
いきなり放たれたどこかで感じたことのある威圧感に、俺は抵抗することができなかった。ただ、心は拒んでいるというのに、体が勝手に相手の指し示す場所に座るという行動に出たのだ。
ハナさんやメイデンさんが希に見せるものとは一線を画する威圧感。これはーー
(うちの女神様と同等……いや、それ以上か?)
まさか、どっかの神様だとは夢にも思わなかった。
「お兄さん、失礼しちゃ駄目だよ。この方はね、麒麟様なんだよ」
俺の隣に正座したファルナが、震えた声でその情報を教えてくれた。
「久しいな、ファルナよ。息災であったか?」
「は……はい! 今は子どもを司る女神様の下でお世話になってます!」
声を掛けられたことで、ファルナは麒麟と呼ばれる老人に向かって頭を下げた。どうやら、あの麒麟で間違いないようだ。
麒麟といえば、ファルナを眷族候補に据えていた神の名だ。
眷族候補としてのファルナを見限り、彼女から眷族の力を奪って暴走の原因を作った神で、正直なところ、俺が嫌いな神の一人だ。
「……それで? ファルナを見捨てた神が俺に何のようだ? さっさと用件だけ話して俺達を元居た場所に帰せ!」
「ふっ……わし相手にそんな口を聞ける眷族がいるとはな……実に面白い! ……だが、青いな、小僧」
白い髭を撫でた爺さんは、こちらを余裕の眼差しで見てくる。
「始めに言っておくぞ、小僧。お前さん達を帰すつもりはわしにはない」




