5-6
その人は、決して美人と呼べるような人じゃなく、不器用ではありましたが、愛想の好い人でした。王都にいた時は同郷のよしみということで、私に自分のおかずを分けてくれたり、困ったことがあったら助けてくれる優しい人で、私にとっては姉のような存在でした。
でも、ある日を境に、その人は働いている職場に来なくなりました。
その人が消えて1週間の月日が経った時でした。
同じ職場の20歳を越えた人達と廊下ですれちがいました
「あの子に優しくしてた人いたじゃない? その人、例の場所に連れていかれたらしいわよ」
「え~まじで~! 小さい子守ってられる程余裕なかったくせにね~」
彼女たちが私を指差して、そんなことを言ってるのが私の耳に入ってきたのです。
その内容がよく理解できなかった私は、仕事場で一番偉い人に、彼女がどこに行ったのか、聞いてみました。
「え? この前までここで働いてた子がどこに行ったか、だって? あの子は、ノルマを1ヶ月も達成できなかったから、とある場所に送られたよ。まぁ、会いたければ、4年後くらいに会えるんじゃない? 君のように将来有望な可愛い子は大歓迎だよ」
その人が見せた不気味な顔が怖くて、私はすぐに仕事場へと戻りました。
それから一年の月日が経ち、私が捜していたその人は、村に帰ってきました。
◆ ◆ ◆
村に帰ってきた彼女を皆は歓迎したかったそうですが、それは憚られました。
…………何故歓迎しなかったのか、ですか?
それは、彼女の腕の中には、赤ん坊が抱かれていて、彼女の首には、奴隷の証を示す首輪が付けられていたからだと伺っています。
瞳には、絶望の色が浮かび、悲壮感漂う姿、皆に見せていた明るい笑顔は見る影もなくなっていたそうです。
彼女は、自分の両親のもとへと向かい、死んだ魚のような目でその赤ん坊を託したそうです。
その赤ん坊を託した時、彼女の両親は彼女に聞いたそうです。「それは誰の子だ?」って、しかし、その質問をされた瞬間、表情を全く変えなかった彼女が急に泣き出しました。
その時、全てを暴露したそうです。
ノルマを達成できなかった者は、戦争で功をあげた者の夜の相手をさせられるという裏のルールが存在していたことを。
結果、彼女は何度も何度も好きでもない人と無理矢理やらされたそうです。
時には、親よりも年が上の人物、時には集団の相手。
そして、いつの間にか孕まされていたそうです。
当然のように、国は流産など許してくれず、もし、意図的に流産したことがわかれば、村の者を皆殺しにすると脅されたため、何も出来なかったそうです。
彼女は全てを打ち明けた後、首輪の効果で命を失ってしまいました。
後に残されたのは、彼女が遺した赤ん坊のみ。
それを聞いていた医者という立場だった私のお母さんは、その話を聞いて娘である私を助けることを決意したそうです。
◆ ◆ ◆
お母さんはお父さんにそのことを伝えました。
お父さんは、村の皆が反対する中、全てを捨てる覚悟で、私を助けるためにお母さんと共に向かいました。
お父さんとお母さんは、パルテマス帝国の王都にある施設を片っ端に破壊していきました。
それは、誰を助けるためにやったのかをわからせない目的が半分、もう半分は、同じ境遇の子を見捨てたくなかったから。
結果的に王都は混乱の渦にまかれ、多くの子どもたちが脱走していきました。
多くの子どもたちは、再び国の軍に捕まりましたが100人以上の子ども達は、行方がわからなくなりました。
私はお母さんに連れられて、おばあちゃんのところに預けられ、結果的に助かりました。
それからは、村の人たちが、お父さんとお母さんの覚悟を知って私のことを庇ってくれました。




