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木が生い茂る林の中で、少女は倒れている一人の男を見つけた。
黒い髪というここらでは見ない髪色に戸惑いを覚えつつも、こんなところで餓死した冒険者だと思い、手を合わせて彼が安らかに逝くよう願った。だが、途中で男が呻き声をあげたので、生きていることがわかり、急いで一緒に来ていた人物を呼んだ。
「おばあちゃん! こっち来て! 人が倒れてるよ!」
孫娘の急かす声に促され、老婆は男の様子を探ってみる。
「………ただ腹を空かせとるだけのようじゃな。大事はないじゃろ」
「どうしよう。こんなのしかないけど」
少女が取り出したのはバスケットに入ったサンドイッチ、それを男の前に置くと、腹を空かせていた男は、それに飛び付いた。
数分後、優真は二人分の昼食をたいらげると、二人にお礼を言った。
「いや~、助けていただき誠にありがとうございます。ちょっとここ3日程何も口に入れてなくて、危うくまた死ぬところでした」
「また? ……まぁよい。ところでお前さんはなんでこんなところにおったんじゃ?」
「それが、クソビッチにそそのかされたもんで」
その老婆の質問に、優真は額に筋を立てた笑顔で自分をこんな目に合わせた女を悪く言った。
◆ ◆ ◆
「……さい。起きてください優真さん」
誰かが俺を呼んでいる気がする。まだ眠いし、もう少し寝かせてーー
「……起きろっつてんでしょうがっ!」
その怒声が耳に届いたあと、腹に強い衝撃を受けて俺は、強制的に目を覚ました。
その痛みに腹を押さえて悶える俺の姿を見下すように見ている女性。うまく顔は見えなかったが、先程の声がその人物によるものだと推測するなら、おそらく女性で間違いないと思われる。
ではなぜ、彼女の姿を俺が確認出来なかったのかというと、一面真っ白に光輝くこの謎の空間では、人の姿を認識するどころか、目を開け続けることすら難しかったのだ。
彼女は、俺が起きたことを見届けると、背中をこちらに向けてスタスタとどっかへ行ってしまった。
……せめて、この場所について説明くらいして欲しかった。
そこでふと違和感に気付いた。
先程まで体を動かすことすらままならない痛みがあったのに、今はそれを一切感じない。………それに、俺は助からなかったはずだ。
しかし、今は体を悶えさせることも、すんなりと起こすことだって可能になっている。
それに、俺がいたのは、公園への道中にある横断歩道だったはず。断じてこんな目に悪い場所なんかじゃなかった。
こうして思考していることすら、おかしいのに、なんでこんなに平然としていられるんだ?
そういえばさっきの人、俺が怪我した腹を思いっきり蹴ってたな。あり得なさすぎでしょ。普通怪我人を蹴るか? というか、怪我した場所蹴るって本当に人間か?
そんな考えに至った俺が、自分の血がべっとりとついたエプロンをとり、服をめくったのは必然ともいえた。
しかし、服をめくった俺は絶句した。
なぜなら、自分の腹には傷なんてものは一切ついていなかったからだ。