35-1
俺は暗い空間にいた。
周りには何もなく、ただただ闇のように真っ暗な空間が広がっていた。
声を出そうと思ったが、声は出せなかった。
そんな俺の前に、突如として一人の人物が現れた。
それは、俺が小学生の頃に亡くした父さんだった。俺の前で優しい微笑みを向ける父の姿に俺は涙を流していた。
もしかしたら俺は本当に死んだのかもしれない。いくらなんでも未完成の大技を土壇場で成功させようなんて無茶だったんだ。
でももう、そんなことはどうだっていい。死んだって思ったら、どうでもよくなってしまった。
それに、これからは父さんと共に居られる。
「……こっちに来るな」
目の前で急にそんなことを言われ、俺は訳がわからなくなった。
今まであんなに頑張ってきたのに……それでも受け入れてもらえないのか?
理不尽な目に何度も何度もあって、その度に死にかけてきたのにさ……。
ミストヘルトータスと戦った時だって……ベラキファスとかいう奴にシルヴィを拐われた時だって……メイデンさんやホムラ達『救世の使徒』と共にガイベラスを倒そうとした時だって……俺は全力で頑張ってきた!!
眷族筆頭とかいう訳わかんない立場になった後だって、ネビアとかいう霧の女神の眷族筆頭に襲われた……色んな人に助けられてようやくネビアを倒したあの時だって俺は最後の最後まで死力を尽くした……チャイル皇国のことでだって、俺は訳わかんねぇ敵相手に全力を出したさ! 絶対に安全だっていう通路もあっさりと攻略されてさ! 結局俺じゃ……ホムラを助けることができなかった……。
なのに……なんで!! なんで駄目なんだ!!!
諦めさせてくれよ! これ以上失う辛さを味わわせないでくれよ! こんな惨めな思いを……させないでくれよ……。
「…………すまん……」
その短い謝罪の言葉に、俺は父さんの方に目を向けた。しかし、父さんの目は俺を見てはいなかった。
直後に、炎が父さんの体を包んでいく。
また失うのが嫌で、急いで駆け寄ろうとしたが、俺の足はいつの間にか消えかかっていた。
「俺が……お前が辛い目にあわない平和な世界を作ってやる……だからもう少し待ってろ」
そう言い放った父さんは、俺の前から姿を消した。




