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いきなり発された殺気に、麒麟は少し面白くなってしまった。
(いったいどうやったら一瞬でわしの背後が取れる……じゃが、そう簡単に勝てると思うなよ、小僧ッ!!)
容赦なく振り下ろした刃がモンスターの首に届くと思った瞬間、このままだと死ぬと思った。そう思えたのは再び止まった時間が見せた光景に教えられたからだ。
曼珠沙華の舞いで後少し刃を届かせられれば、首は斬れたかもしれない。だが、モンスターの体に電気がほとばしっているのだ。今は【勇気】の効果で時が止まっているからダメージの類いはない。
だが、この状況で【勇気】が発動したということは、俺の攻撃よりもこいつの攻撃の方が早いということだ。
確実に不意を取ったと思ったが、このモンスターは反応速度までえげつないようだ。
行動選択の余裕が残り30秒もない。
眷族の異常な回復力や防御力を信じてこのまま斬るか、それとも一度退いて体勢を立て直すか……。
せっかくのチャンスだ。本当はこのまま斬ってしまいたい気持ちは大きい。だが、確実に斬れるという保障なんてものはない。
時間になって時が動き出した直後、麒麟の体から広範囲に広がる雷撃が放たれて、辺り一帯が黒焦げになった。
「……ほほう……あの状況からかわしてみせたか……」
麒麟の視線が向く先、そこには剣をこちらに向けながら呼吸を整えている黒髪の青年が立っていた。
「……はは……あんなん食らったら冗談抜きで死ぬって……」
寸でのところで回避を選択した優真だったが、予想以上の広範囲攻撃に内心びびっていた。
初めてタイラントグリズリーを見た時やミストヘルトータスと戦う前に感じた恐怖が自分の心を侵食していく。
……だが、ここで退く訳にはいかなかった。
このスティルマ大森林のどこかには、この世界に来て、お世話になった村の皆がいる。自分のせいで片腕を無くした師匠がいる。見逃せば、目の前の化け物がどう行動してくるかわからない。
これ以上、彼らに迷惑をかけたくない。
「……それに……聖域にこいつが入りこむ可能性だって0じゃないもんな……」
俺はホムラを守れなかった。もっと強ければ……敵が俺の大切なものに手を出そうなんて考えないほど強ければ、彼女が死ぬことはなかった。彼女は絶対に生き返らせる。例え全世界を敵に回しても、彼女は生き返らせる。それが俺に出来る償いであり、自分の夢を叶える前にやらねばならないことだ。
だから、これ以上俺は罪を重ねる訳にはいかない。




