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事件が起きてから10日の月日が過ぎていた。いつものようにモンスター相手に特訓をする優真であったが、彼は集中しきれないでいた。
原因は、ホムラの死に引き続いてメイデンが彼の元から去ったことである。
優真は元々、心が落ち着きを取り戻したら、メイデンに稽古をつけてもらおうと考えていた。彼女に試合で勝ちはしたが、地力は彼女の方が遥かに上だと感じていた。
眷族の中で3位の位置付けにあるハナに関しては、特殊能力以外があまりにも酷かったから、メイデンに頼もうとしていた。
しかし、メイデンは優真の元から去り、その計画は頓挫した。何よりも、メイデンの力に再び頼ろうとしていた自分の甘さに、むかついていたのだった。
「……くそっ! ……足りない……もっと……もっと強い相手じゃないと!」
初めて見た時に逃げることしか出来なかったタイラントグリズリーでさえ、もはや話にもならない。昔は頼りっきりだった特殊能力【勇気】でさえも、使う機会は極端に減った。自分が強くなっているのはわかる。だが、この程度じゃ時空神に会うことすら叶わない。ホムラを生き返らせるなんて夢のまた夢だ。
「!? なんだこれ?」
倒したモンスターをアイテムボックスに転送していると、いきなり変な気配を感じた。
関わるのは危険だと姿すら見えないにもかかわらず、本能が訴えかけてくる。だが、そいつと戦うことで強くなるかもしれないと思った俺は、急いで気配を感じた場所に向かった。
◆ ◆ ◆
それはこの森で多くのモンスターを狩ってきた優真ですら、初めて見るモンスターだった。大きな湖の付近で体を丸めて寝ている巨獣。全長は丸まっているせいでわからないが、軽く20メートルはありそうで、頭は狼でありながら角があり、体はどことなく鹿のように思えた。
「あれってキマイラか? ……というかモンスターなのかも怪しくなってきたな……」
この森には、凶暴なモンスターの他にもリスや鳥といった動物も存在している。だが、どう見たってそいつは安全な動物とは違うように思えた。
「……このまま寝ている隙に仕留めることは出来そうだが、俺の目的は強くなること……不意討ちなんて何の得にもならないな……」
一応、刀はすぐ抜けるようにして、音を立てないように、ゆっくりとそのモンスターに近付いていく。
1メートル近付いても、そのモンスターに動きはない。
2メートル近付いても、微動だにしない。
モンスターとの距離は10メートルあるかないかで、警戒を最大限にして、5メートルほど前に出てみた。




