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34-2


 その青年は木が生い茂る森の中に、たった一人で佇んでいた。目を閉じたまま、何をするでもなく、ただ、立っていた。

 そんな青年の耳に獰猛な獣と思われるうなり声が聞こえてきた。だが、青年はその場から動こうとしない。まるで地面に足を固定させているのではないかと思わせるほど、微動だにしない。

「……6匹か……」

 目を閉じていた青年が、ゆっくりと目を開いてそう呟くと、近くの茂みが動いた。次の瞬間、その茂みから獰猛な見た目の獣が青年に襲いかかった。

 獅子のような鬣に、虎のような紋様が特徴的な見た目の猛獣は、その前足で青年の頭を殴ろうと仕掛けてくる。

「……ライガーってこっちの世界にもいるんだ……殺すの勿体ないな……」

 自分の体よりも大きな猛獣が襲いかかってきたにも関わらず、黒髪の青年は恐怖に染まった顔を見せない。だが、猛獣が感じた違和感はそれだけではないだろう。

 なにせ、いきなり自分の前足が何の前兆もなく自分の胴体から切り離されたのだから。

 そして、勢いよく舞った自分の血で青年を見失った瞬間、世界が反転した。


 残り5匹のモンスター達は、仲間が前足と首を一瞬で斬られるという光景を目の当たりにしたからか、少しだけ後退りした。だが、逃げるのであれば、もっと速く判断するべきだっただろう。

「十華剣式、壱の型、菊一文字……」

 刀を鞘に収める音と青年のものと思われる声が辺りに響くと、5匹のモンスターから大量の血が吹き出し、地面に音を立てて倒れてしまった。

 

 ◆ ◆ ◆


 チャイル皇国の王都が襲撃されるという事件から既に1週間が経っていた。

 俺は今、シルヴィ達に相談して一人でスティルマ大森林に入っている。

 今のままじゃホムラを生き返らせる方法が教えられないとパルシアスに言われたからでもあるが、一番の理由は俺自身が自分の弱さにむかついたからだ。

 もっと早く皆の元に戻っていれば……もっと早くあの扉をぶった斬っていれば……そう思うと、自分の弱さが嫌になった。

 自分の大切な存在が殺されたというのに、何も出来ない自分の無力さがもどかしい。もっと力があれば、ファルナが血を流すことはなかったかもしれない。ホムラも助けることが出来たかもしれない。……だが、下を向き続ける訳にはいかない。立ち止まる訳にはいかない。

 そんなことをしていたってホムラが帰ってくることはないのだから。


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