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そこは真っ白な空間だった。
そんな空間に白いワンピースを着ている女性はいた。
逆さに浮かんでいる女性は、まるで重力が逆にかかっているかのようにウェーブがかった浅葱色の髪が彼女の腰辺りまで伸びている。
不思議な雰囲気を漂わせているその女性は、目を閉じたまま動いていない。
彼女以外には何もないこの真っ白な空間。しかし、そんな空間に異変が起こった。
その異変は空間に亀裂を生じさせるというものだった。だが、女性は動じた様子どころか気にした様子すら見せなかった。そして、ゆっくりと口を開く。
「時間通りでしたね……」
「……でしょうね……」
ゆったりとした口調の問い掛けにそう答えたのはクリーム色の髪をかきむしった青年だった。
先程までいなかったにも関わらず、青年は女性の1メートル程前に立っていた。
「それで? どうでしたか?」
「……言わなくても分かってるんじゃないですか?」
「貴方の口から聞きたいのですよ」
青年の表情からは怒りが伺えるものの、その怒りを彼女にぶつける様子はなかった。
「……時の波動が発生したので見に行ってみれば、優真達が襲われていました。……あいつ……泣いてましたよ……」
悔しそうに歯噛みしている青年の姿を、うっすらと開いた目で見た女性は口元に笑みを見せながら「そうですか」と答えた。
その言葉に青年の堪えていた感情が溢れ出す。
「そうですかって……あいつの国を襲ったのは僕と同じ時空神様の眷族なんですよ! 僕が奴を止めていれば……こんな結果にはならなかったんですよ!」
「落ち着きなさい。取り乱すなんてパルシアスらしくないですよ?」
「これが落ち着いてる場合ですか!! あいつは僕がようやく見つけた自分と対等になれるかもしれない友人だったんですよ!! それに……創造神様の隠し子に手を出したとなれば、時空神様の立場だって……」
「そうですね。あの子の眷族達が無能であの子まで殺されるというところまで行っているのであれば、流石の私も動いていました。しかし、あの子の眷族達は素晴らしい働きをしてくれました。信仰者が犠牲になった程度で最高の駒の一つが手に入ったのです。喜ばしいことではないですか……」
「……そんなことのためにあいつは……優真は大切な人を殺されたんですか? 貸しを作るって手段だってあった筈じゃないですか……」
「それでは雨宮優真の覚悟が足りません。自分の力不足で大切な仲間を失う。これで、雨宮優真は更なる進化が期待でき、彼の前に蘇生という言葉をちらつかせれば、彼は私の思い通りに動かすことができる」
「そううまく行くとは思いませんがね……」
「いくわ。私を誰だと思っているの?」
「そう……ですね。貴女は全ての時と空間を司る創世神の一角……貴女に見えない時間など無いのでしたね」
恭しく一礼したパルシアスに、時空神は慈悲深い微笑みを見せる。
「パルシアス、今年の『神々の余興』は面白くなりそうよ……」
自分以外誰もいないその空間で、彼女はそう呟いた。




