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儚げな笑顔でその言葉を告げた直後、彼女は目を瞑ったまま喋らなくなった。
「……おい……ホムラ……? ……っ!! ……そういうのはさ……死に際で言うんじゃねぇよ……」
大粒の涙が溢れてきて、傷口を押さえていた俺の手に落ちていく。
この世は本当に理不尽だ。人を簡単に殺していく奴が生き、真面目に生きようと思う人が死んでいく。……彼女は、理不尽な環境に生まれ、理不尽な環境で生きてきた。体罰という名の暴力で、顔に一生残る傷を負わされ、『救世の使徒』のリーダーとして頑張っていく中で多くの仲間が死んでいくのを目の当たりにした筈だ。戦うことが嫌いでありながら、仲間を守るため、理不尽に晒されている子ども達を救うため、その小さな手を血で汚していった。
ようやく、その辛く悲しい戦いに終止符が打たれたっていうのに……ようやく、自分の目標を見つけて前に進もうとしていた彼女に……この仕打ちはさすがに理不尽じゃないか……。
涙が止まらない。こうして彼女を抱きしめていても、彼女の心臓は動いてくれない。鼓動を刻む音は聞こえてくれない。
「……やはり予知通りになったか……」
優真がホムラの死にうちひしがれていると、何かが割れる音と共に一人の青年が優真の前に現れた。
優真は声のする方に顔を向けた瞬間、その顔に怒りを見せた。
「……おい……お前の予知を覆せなかった俺を嘲笑いにでも来たのか? ……それともお仲間が仕事を果たしたかの結果確認にでも来たのか?」
優真は涙を目から流しながら、その青年に怒りのこもった目を向ける。
優真が見せるオーラを見た瞬間、少しでも言葉を間違えれば、被害が計算できない程の戦いになるとパルシアスにも容易に想像出来た。
「……別に僕は君を嘲笑いに来た訳じゃない。……ただ、謝りに来たんだ」
「帰れ。……今はお前の顔を見ていると殴りたい気持ちが抑えられそうにない。俺の理性が保っていられる内に去ってくれ……」
優真は悔しそうに顔を歪ませながらそう言うが、パルシアスは去らなかった。
「……本当にすまない。僕は筆頭失格だ。仲間がこんなことをしていることに気付きすらしなかった……殴って君の気持ちが晴れるならいくらでも殴ってくれて構わない……」
頭を深々と下げて謝るパルシアスの姿に、前のようなふざけた様子は見られなかった。真剣に謝っている。
だが、それで許せる範囲の問題では無かった。
「ふざけんなよ!! これを見ろ!! お前の配下が暴れまわったせいでこっちは多くの死者が出たんだぞ!! ……ホムラだけじゃないんだよ!! ……今回の騒動でファルナだって死にかけた……。それを謝っただけで許してもらえると思ったら大間違いだぞ!!!」




