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(……子どもを司る女神ねぇ……なんかどっかで聞いたことあるような女神だな……どっちにしろファミルアーテですらないのなら作戦に支障はないな……)
黒に近い赤髪の男は腹から血を出して黙ってしまった少女の腹を苛立った様子で蹴ってから、舌打ちした。
蹴られた少女は反応を示さない。
「……まぁいい、お前が心配している人間はさっき死んだ。なかなか楽しめたが、所詮人間……脆すぎて話にもならなかった……少し時間をとられたが、他の仕事もさっさと終わらせーー」
『十華剣式、拾の型、華天撫子の舞い……』
少女が持っていた機械からそれが聞こえた直後、何かが崩れるような音が廊下中に響いた。
音に反応してそちらの方を男は見るが、土煙のようなものが発生しており、遠くの様子は全くと言っていいほど見えなかった。
しかし、急に土煙が晴れた直後、何かが近付いてくる気配を男は感じた。しかし、時既に遅く、自分を狙っている男の姿が視界に映りこんだ。
「十華剣式、壱の型、菊一文字!!!」
黒髪の青年は剣を振るった。手応えはあった。刀には血が付着している。だが、青年の表情は晴れなかった。
青年の表情が怒りで歪むと、何かが床に落ちる音がした。そこに倒れていたのは、先程まではいなかったはずの、武装した敵だった。
「てめぇ……自分の仲間を盾にしやがったな……」
「こいつらは仲間じゃない。俺様の駒でしかないのだから、こいつも盾になれて本望だろう」
男が堂々と言い放った言葉だけでわかる。こいつは人間じゃない。こいつは人を自分の道具としか見ていない。その目はガイベラスが見せたものとよく似ている。
「予想はしていたが……まさかどっかの眷族が絡んでいたとはな……」
「ふむ……俺様は予想できんかったぞ……まさか、今の一撃が目眩ましだったとはな……ぬかったわ!」
愉しそうに歪んだ笑みを見せる男に舌打ちしてから、俺は自分が抱いている少女の様子を横目で確認した。
……今の一撃を本気で打たなかった訳じゃない。ただ、斬ろうとして近付いた瞬間、ホムラの姿が見えたから、彼女の救助を最優先にしただけだ。その結果、攻撃が中途半端になって相手が防ぐ隙を作ってしまった。だが、俺はホムラを奴の足元から救出することは出来た。
俺の左手に抱かれているホムラはぐったりしている。だが、かすかに呼吸をしているのが感じ取れた。
「……来れるか?」
そう聞くと、いつもの通知音と共にタッチパネルが出現し、一つのメッセージが読み上げられた。
『今すぐにでも……しかしながら、相手の眷族の攻撃は……』
「俺があいつの相手はしてやる!!! だから来い!! ミハエラ!! オープン!!」
俺はホムラの怪我を治してもらうために、ミハエラさんを呼んだ。
しかし、先程とは違い、何故か彼女は来なかった。




