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「ふむ……どこから出てきたのか……いささか疑問だが……黙って隠れていれば見つからないで済んだんじゃないのか?」
いきなり何の前触れもなく左肩に痛みを感じた男は右手についた自分の血を見て、振り返らずにそう聞いた。
先程まで生きている人間の気配なんてものは無かった。にもかかわらず、その存在は発砲音と共に出現した。
「わかってるさ……私じゃあんたには勝てない……あんたと戦えば間違いなく殺されるって……それでも!」
振り返った男に対して、ホムラは体を震えさせていた。それでも、その目は怯えきったものではない。
覚悟を決めた目だった。
「私にとって初めてだったんだ!! 使えない飯食らいとして、こき使われていた幼い時とも違う……皆に頼られてばっかりのあの時とも違う!! シェスカとファルナに無理矢理遊びに付き合わされたり、万里華さんに洋服を見繕ってもらったり、シルヴィさんやユリスティナさんと料理をしたり……私にとって初めてのことばっかりだったんだ!! ……だから、あんたなんかに私の大切な場所を奪わせたりなんかしない! 私の……好きな人が大切に思う人達を絶対に傷つけさせない!!」
「そうか…………ならば死ね」
男は冷たい視線を向けながら、手に持つ大鎌を軽く横に振った。
大鎌を振ったことで発生させた見えない斬撃は、ホムラを容赦なく襲う。しかし、当たると思われた瞬間、斬撃は彼女の体に当たることなく、通り過ぎていった。
その直後に咳き込むホムラを見て、男は驚いた顔を見せていた。
「ほぉ……なるほど。その特殊能力で俺様の攻撃もかわした訳か……案外面白いじゃないか!!」
テンションの上がった男は顔に笑みを見せているが、ホムラにはそんな余裕はない。それでも、こんなところで動けなくなるわけにはいかない。
「……絶対に皆の元には行かせない……あんたにはダンナが来るまでここにいてもらう……」
ホムラはナイフを持った右手で口元に付着した血を拭った後、敵の男目掛けてナイフと小型拳銃を構えるのであった。




