33-29
部屋から出て王族直通通路を移動している最中、後ろで二つの勢力が戦っているのを見たユリスティナは、思わず息を飲んだ。
銃弾が飛び交い、赤い血が宙を舞い、また一つ生命が失われる。
あのままあそこにいれば、間違いなく死んでいたことだろう。それがわかる程に、敵は近くまで迫っていた。
「ごめん……腹を殴っちまって……」
自分のせいで3人を危険に晒してしまったことをシルヴィが悔やんでいると、ホムラが走りながら謝ってきた。
「……いいんです……私のせいで皆さんが行けないんだってわかってました……それなのに動けなかった私が悪いんです……」
その言葉にホムラが安心したような息を吐いたのをシルヴィは彼女の背中越しに感じていた。
「そっか……。私さ……本当はもう暴力は振るわないって決めてたんだ……。保育士ってやつになって、子ども達に私が味わってきた辛さを経験させないためにも全てを暴力で解決するようなやり方はもうしないって……そう決めてたんだ……」
「……ホムラさん……」
悲しそうに話すホムラの言葉はずしりと自分にのし掛かってくる。もう暴力は振るわないと決めていた彼女に、暴力を振るわせてしまったことが申し訳なくなって、彼女に謝ろうとしたが、その前に彼女が続きの言葉を紡いだ。
「……でも、約束したんだ。ダンナがいない間……ダンナの大切な人を守るって……そう約束したんだ! ……だから……あんたは死なせねぇ……。私が命に換えてもダンナの大切な人達を守る!! その為だったら私は……」
ホムラは勢いに任せて続きの言葉を言おうとするが、その続きは絶対に言えない言葉だったことを思い出し、寸でのところで押しとどまる。
シルヴィは住む世界が違う。生か死かの絶望的な環境で生きてきた自分とは違う世界の人間なのだ。だから……言えなかった。
こうして彼女に担がれていると、あの日の光景がフラッシュバックする。でも、後悔したところであの日起こった出来事が変わる訳じゃない。失った人はもう帰ってこない。
「もう大丈夫です……自分の足で走れます……」
シルヴィがそう呟いたことで、ホムラは足を止めた。出口まで100メートル程の距離で、開かれた扉の前にはカルアーデの姿が見える。このまま行くことも出来たが、ホムラはあえてシルヴィを下ろした。決して重かったからとか走りにくかったからとかじゃない。ただ、彼女が前に進もうとしているのであれば、それを邪魔するべきではない。そう考えたからだった。
ホムラよりも1メートル程前で立ち止まり、事の成り行きを見守っているユリスティナと万里華、そして先程まで自分を運んでくれていたホムラに、シルヴィは頭を下げた。
「お手数をおかけしました。もう二度とこのような真似をしないように心掛けたいと思います!」
その言葉でホムラは口元に笑みを作る。
「いやいや! そういうの後でいいから! 今は急いで扉の方に行かないと!!」
万里華が謝るシルヴィにそう声をかけると、先程まで青ざめていたはずのシルヴィは、その表情を真剣なものにして、彼女の言葉にうなずいた。
そして、シルヴィ、ユリスティナ、万里華の3人は扉の方に向かって走り出した。




