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「な……なに言ってるの! ここにいたら危険だってシルヴィちゃんならわかるでしょ!」
シルヴィが放った行かない発言に万里華がシルヴィの両肩を掴みながら説得する。しかし、シルヴィの表情には恐怖だけがこびりついており、ただ、震えていた。
「駄目なんです……私はここでユーマさんとシェスカを待ってないと駄目なんです! ここで待ってるって……私はユーマさんと約束したんです!!」
万里華やユリスティナからしてみれば、生きて優真と再び会うことが絶対条件だ。だが、シルヴィには辛い経験があった。絶対に忘れることが出来ない過去、それがシルヴィをここに縛り付ける理由だった。
優真とシェスカがなかなか戻ってこなかったあの日、自分が村でちゃんと待っていなかったせいで大好きな祖母を罪人として死なせてしまった。あの日見た光景が頭にちらついて、ここから出たくないと考えてしまう。
優真は自分がこの村に来たからシルヴェスタを死なせてしまったと考えているが、シルヴィも大好きな祖母が死んだのは自分が勝手に飛び出したからだと思っていた。
だから、優真とシェスカの二人がいないこの状況でシルヴィは動けない。
あの時も最終的に助けてもらったとか、あの時と状況が違うからとか、ここで皆と行動しなければ、皆が危険だということもわかっている。だが、扉の方に行こうとすると、何かに引っ張られるような感覚に陥り、焦点が定まらない。おまけにあの日見た祖母の最期が頭をフラッシュバックする。
「お急ぎください! 敵がすぐそこまで迫っております!!」
カルアーデのものと思われる声がかなり遠くの方から聞こえ、万里華は焦ったような顔を向けた。その直後だった。
「すまねぇ……」
いきなり謝罪の言葉が聞こえ、シルヴィは腹部に重いパンチをもらった。
意識が飛びそうになるような一撃は、シルヴィの細い体をよろめかせた。その彼女を支えたのは、シルヴィよりも小柄な赤髪の少女だった。
「ホムラちゃん!? ……いえ、今はそんな問答をしている場合じゃないわね! 行きましょう、二人とも!」
皇王が既に避難させられていたため、この場にいるのは廊下で戦っている者を援護しようと待機していた軍の兵士達と万里華達だけだった。
万里華はシルヴィを肩に担いだホムラとユリスティナに声をかけ、うなずいた二人を連れて部屋を出た。




