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その質問は、俺にとっての懸念事項だった。
そもそも、大地の女神様という神の中で上位の存在が創った聖域と呼ばれる場所ですら攻められる可能性があると言うから、彼女達をここに連れてくるしかなかった。だから、子どもを司る女神様が住む天界に居ては、再び襲われる危険があるのではと思ってしまったのだ。
だが、その心配は再び鳴った通知音と共に消え去った。
『安心したまえ。どんな人間でも迎え入れる聖域は危険かもしれないが、私の許可した者以外は入れない。神の中で一番の力を持つ創造神が私のために創った場所だ。例外はこの100年一度もない!!』
その言葉が俺に与えた衝撃はかなりのものだった。彼女達を護りたい俺にとって、女神様からの提案は魅力的なものだった。
「だったら頼む! ファルナを治すために女神様の力を貸してほしい!」
『もちろん。かわいいかわいい私の家族がピンチなんだ。私に出来ることはなんだってやるさ』
女神様がそう言われたことで、俺は思わずガッツポーズをした。
(守った。守りきった。あいつの予知を覆せた。ファルナはミハエラさんに任せれば大丈夫だ。後はこの国を守れば俺の……いや、俺達の勝ちだ……)
目の前でぐったりしているファルナを背負って、白いゲートに入ろうとしているミハエラさんの姿を見て勝ちを確信した俺は、女神様にもう一つお願いをすることにした。
「ねぇ女神様。シェスカも一緒に連れていってもらえないか? 戦場にシェスカを連れてはいけない。それに……一人にもしておけないしな……」
俺の手を小さな手で握る少女の頭を、彼女が握っていた手で優しく撫でる。
『もちろんだ。戦いが終わるまで二人は責任を持って預かるよ。だから、100年間も私の支えになってくれたこの国を私の代わりに助けてやってくれ!!』
「言われるまでもないよ……」
タッチパネルに向かってそう言った俺は、膝をついてシェスカと同じ目線になった。彼女は泣きそうな顔ではあったものの、必死に泣かないよう我慢している様子だった。
「ねぇシェスカ……さっきはごめんね。お兄ちゃんも本当はシェスカといっぱい遊びたいんだ。……でも、お兄ちゃんはお兄ちゃんだから……シェスカだけじゃなくて、皆を守らないといけないんだ。……だからさ、少しの間、お兄ちゃんが帰ってくるのを待っててくれないか?」
「…………絶対帰ってくる?」
本当は嫌だと言いたい気持ちを抑え、自分の気持ちを我慢しているのが、彼女の表情と声から伝わってくる。
「……ああ……その時は前みたいに笑顔でお出迎えしてくれるかな?」
「…………うん……」
「ありがとう……シェスカ……」
悲しそうな表情でシェスカが頷いたのを見て、俺は彼女の頭を再び撫でた。するとシェスカは、自分の腕で目元を荒く拭い始めた。
「行ってらっしゃい、お兄ちゃん!!」
腫れてしまった目に再び涙を溜めながら、シェスカは笑顔で俺を送り出してくれた。




