33-15
人間達が銃を構え始めた瞬間、ファルナは呆然と立ち尽くしているシェスカの体を抱きながら、曲がったばかりの廊下に向かって跳んだ。
銃弾が自分達の背が向いていた壁を穿った光景を見て、ファルナは急いでシェスカを抱き上げて思いっきり走り始めた。
(な……なんでこんなところに眷族が……!?)
眷族が放つ特有のオーラを微量ながら発していた先程の男。完全に隠しきれていないながらも、そのオーラは今まで見たものよりも異質だった。黒に近い赤……そんな不気味な色のオーラが、彼から滲み出ていた。
あれと戦ったとしても、勝てないというのが肌で感じられるくらいの化け物……人間の姿をした化け物だった。そんな相手が自分を殺せと指示を出した。
(逃げなきゃ……遠くに……追い付かれないくらい速く……)
そう考えていたファルナだったが、彼女は何度か角を曲がると、足に力を込めて、急ブレーキをかけた。
「……なんで? ……なんで僕より前にいるの?」
適当に走っていた訳じゃない。開けっぱなしにしていた扉を目安に来た道を戻っていたのだ。だから、こいつがこんなところにいるなんてあり得る筈がない。
「……最悪だな……まさかどっかの神の眷族がこんなところに居やがるなんてな……」
禍々しい雰囲気の男が、ファルナ達の方に殺気を向ける。ファルナが抱いているシェスカはその殺気を直に受けてついに泣き始めた。
実際、泣きたいのはこっちだ。しかし、シェスカの前でだけは絶対に泣かないと決めた。シェスカを守ると決めた。
「……だって僕は……シェスカのお姉さんだから……!! 絶対にシェスカは僕が守る!!」
シェスカを守る。その覚悟を示したファルナの体から膨大な力が溢れ出る。自分の体が徐々に獣の姿へと変化していくのを感じながら、ファルナは大きく息を吸った。そして、空気を振動させる程の咆哮を放つ。
そこに立っていたのは、白く綺麗な毛並みを見せる猛々しい虎だった。
「神獣族の白虎……麒麟の眷族か?」
オーラと同じ黒寄りの赤髪をかきむしった男は、ファルナの姿を見て、めんどくさそうなため息を吐いた。
(ちっ……よりによって麒麟かよ……今麒麟に目をつけられるのは正直面倒だな……)
男はもう一度大きくため息を吐いた。そして次の瞬間、男はファルナの喉元に八勁を当てていた。
「……まぁ、面倒だから殺しとくか……」
その言葉を男が呟いた直後、神獣化していたファルナの体は呆気なく壁に叩きつけられた。




