33-13
誰もいない通路、何度か開けた扉の先にも誰かいた形跡はあっても、そこに人はいない。
「……ねぇ……お姉ちゃん達どこぉ……」
栗色の髪の幼い少女は、涙目になりながらそう呟いた。空いている左手で自分の涙を拭った少女の頭に、大人よりも小さな手が置かれた。
「大丈夫だよ、シェスカ……僕がついてる……」
笑顔で優しい言葉をかけてくれたのは、自分の手を握ってくれている白髪の少女だった。優しくて暖かい手が心細い自分を安心させる。
「…………うん……」
今にも泣きだしそうなシェスカに戸惑いながらも、ファルナはそれを顔に出さないよう必死に彼女を慰める。それが功を奏したのか、シェスカもゆっくりではあるが、歩いてくれる。
大好きな人から学んだこと。
頼られる立場にあるならば、決して不安な顔を見せないこと。不安な時程笑顔で接することを心掛けるべし。
その言葉を胸にファルナはシェスカと共に前へと進んだ。
11歳のファルナと6歳のシェスカは、現在迷宮通路に入って迷っていた。
この迷宮通路は、城の廊下として機能するものだが、本来の役割は侵入者を王族が住む区画に向かわせないためのものだった。
光景はまったく変わらず、何度も同じ場所をぐるぐると回っているのではないかと錯覚させる仕掛け、敵を足止めさせている間に、兵士を送り込むという狙いがあるため、この通路はゴールまでが異様に長い。
ここに仕える使用人には、あらかじめルートや部屋の位置を覚えてもらう必要があるこの通路は、長年勤めた使用人でさえも行方不明になってしまう程、攻略難度が高い。
そんな場所を二人がクリア出来る可能性は限りなくゼロに近かった。
だが、この二人はそんじょそこらの子どもじゃなかった。
特にシェスカは、特殊能力【探査】を持っている。これは、探したい相手の顔を思い浮かべることで、相手の位置を的確に見つけ出すというものだ。また、ファルナは嗅覚が優れている。しかし、この迷宮通路の前では、二人の能力は何の意味もなさなかった。
シェスカは何度か姉達の居場所を探し当てたが、目の前に立ちはだかる壁が邪魔で、うまく彼女達の元に辿り着けない。ファルナも同様の理由でうまくいかなかった。既に約束の10分を過ぎ、更には大規模な爆発が何処かで起こった。このままここにいては危険だということを自分の本能が覚る。
そして、第2の作戦に切り替えたファルナは、こうして見つける度に扉を開いていく。迷わずに済むかもしれないという利点と、誰かがいたら皆の元に送ってもらおうと考えていたからだ。




