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「わかりました。私達チャイル皇国の民は貴方様の御力になりましょう」
「…………え?」
てっきり持ち越されると思っていた俺は、皇王様があっさり了承したことに驚きが隠せなかった。
それどころか逆に納得がいかなかった。
「いやいや、待ってください! いいんですか!? そんなにあっさり決めちゃって!!」
いくらなんでも、即決はおかしいだろう。国の経営に関しての知識がない俺にもわかる。この前の摂政みたいな上層部の人達には相談するべきだと思うし、ましてや、国のお金を動かすのであれば、経理のような人達に無許可はまずいと思う。
だが、皇王様は首をゆっくりと縦に振った。
「ええ、女神様が認めてくださっているのでしたら、私達に拒否する理由はありません。ましてや、国の子ども達にも利があるのであれば、私も微力ながら協力させていただきたいと思っております」
彼女の真剣な眼差しを見た俺は、ソファーに座っている彼女からその右斜め後ろに立つカルアーデ君に視線を移した。
「……なぁ、カルアーデ君……」
「なんでしょう?」
「信仰者って眷族筆頭の言うことを絶対に聞かなきゃならない決まりとかあんの?」
「そう……ですね……。確かに眷族筆頭のように、比較的神様に近い存在の話は聞かなくてはいけないという規則はあります。しかしながら、実行に移すかどうかは自由です。不可能である理由を明確に伝える努力をし、それでも聞き入れてもらえないのであれば、我慢して実行するか、信仰している神様を変えるという選択肢が、私達信仰者にもあります。しかし、陛下は迷わずやると仰せになりました。それはつまり、陛下は優真様がやろうとしていることが、この国に大きな利益をもたらすと考えておられるのです。……それに、この国の上層部は、陛下に絶大な信頼と多大な期待をかけています。教育という方法を取り入れ、孤児達にも受けさせることで、この国は大きく発展していきました。だからこそ、私達は陛下についていくのです!!」
彼の目からは、皇王様のことを信頼しているのが伝わってくる。実際、こっちには何の不利益もない。彼女達が俺の意見に流されるのではなく、彼女達が彼女達の意思で俺の話に賛同してくれたのであれば、俺がこれ以上何かを言う必要はないだろう。
(……まぁ、俺が眷族筆頭という立場だったからこそ、彼女達は俺の言葉を疑わないんだろうな……)
「……わかった。……では、信仰者ワルシャワ・ディア・チャイルと契約する。この世界に保育士という職業をつくる為に、このチャイル皇国の力を貸してくれ」
視線を再び皇王の方に戻し、俺は前に教わった契約の祝詞を告げる。
「はい。私、ワルシャワ・ディア・チャイルの名に誓って、このチャイル皇国は、全身全霊をもってアマミヤユウマ様をサポートする事、子どもを司る女神様に誓わせていただきます」
彼女は立ち上がっていた俺の前にかしずき、そう返してくる。すると、神々しい光がどこからともなく放たれ、1枚の紙が天から降ってきた。
それを俺が空中で掴み、皇王様に渡した。
そこには、先程の契約内容が書かれており、これでお互いの同意が無い限り、これが破られることはない。
「これからよろしく頼むね」
そう言いながら手を差し出すと、皇王様も俺の手を握り、「はい」と短く笑顔で答えてきた。
その直後、轟音が耳に届いた。




