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全てを聞き終えた俺は体を動かそうと思って、立ち上がろうとすると、体がよろめいた。
「だ……大丈夫ですか!?」
シルヴィによろめく体を支えられ、途端に顔が熱を帯びる。
(……やばい。年下の女の子に体を支えられるって、……超恥ずかしい)
シルヴィは、俺の体を支えながら、置いてあった座椅子へと座らせてくれた。
体を背もたれにあずけながら、思っていたことなんだが、やることしないで、じっとし続けるってなんか罪悪感とかがあるよな。
ハルマハラさんが生きてるんだったら、ちゃんと謝りにいかないといけないし、ライアンさんにも、ありがとうって伝えないと……意外かどうかは置いておくとして、あの人が治癒魔法を使っていなかったら、俺はこの場にいなかったと思うし。
俺がこの先どう動いていこうか悩んでいる時だった。
「ごめんなさい。最近あなたを避けるような真似して、更には、ユーマさんに、今回の件で迷惑をおかけして、本当にごめんなさい……こんな私のこと……お嫌いになりましたよね?」
悩んでいる俺に向かって、シルヴィは、申し訳なさそうな顔を見せながら、唐突に謝ってきた。
彼女が何故そんなことを言っているのかわからなかったが、適当な誤魔化しは良い結果を生まないと思った。
「嫌い? なんで? 俺はこの村に来てからシルヴィのこと見てきたけど、むしろ好きになったよ?」
「……好きって、私はあなたのことをずっと避け続けてたんですよ!」
怒っているのか、恥ずかしがっているのか、彼女の頬は赤く染まっていた。
「そんなの関係無いさ。子どもたちに対していつも笑顔で接して、真摯に向き合うシルヴィの姿を俺はここ数日ずっと見てきたからな。そりゃあ、確かに避けられていたことは辛かったけど、それは、あんな酷いことを言った俺が悪いだーー」
「あなたはなにも悪くないじゃないですか! 悪いのは私たちで! 自分の立場を省みずに、失礼なことをしてしまった私が悪いんです!」
最後まで言いきる前に、彼女は身をのり出して、顔を至近距離まで近づけてきた。
その勢いに少しびっくりしたが、彼女の整った顔が近くにきて少し嬉しかった。なんかいい匂いもするし……と、いかんいかん。こんなの真剣な彼女に対して失礼だ。
「……じゃあ、なんで避けてたのさ? 俺が酷いことを言ったからじゃないなら、…………いったいなんで?」
そう言うと、彼女は体勢を元に戻して、再び背筋を伸ばした正座をする。少しだけ、残念な気持ちになった。
「……ユーマさんに合わす顔がなかったんです。ユーマさんに会ったら、悪口を言われるかもしれないと思っちゃって。……薄々勘づいているでしょうが、この村に私以外10代、20代の人はいません。だから、同年代と接する機会がまったくなくて……だから謝りたくても、どうやって謝ればいいのかわからなくて、本当にごめんなさい!!」
「もういいよ。シルヴィに何があったのかは知らないけど、俺を嫌ってた訳じゃないんだったら、ほっとしたしね。それから、俺は、もうあの日のことを怒っちゃいないよ。だからさ、これからは仲良くしてくれると嬉しいんだけど……どうかな?」
「……いいんですか? こんな私でも?」
シルヴィの震える声に否定の言葉なんか思い付かなかった。
「もちろんだよ。これからよろしくな、シルヴィ」
「はい! よろしくお願いします、ユーマさん!」
そう言ったシルヴィは満面の笑みを見せていた。
◆ ◆ ◆
「こうして、優真君の異世界転生は幕を開けた。
波乱な幕開けではあったが、こうして村人全員に受け入れられたことは実に喜ばしいことだった。
しかし、この時の彼はまだ知らない。
シルヴィちゃんに隠された秘密。それがきっかけで起こる悲劇。これから起こる問題が、平穏に暮らしたいという彼の願いを打ち砕いていくことをーー」
「女神様も人が悪いですね。彼が平穏に暮らしたいという意思を持っているとわかっていながら、彼を自分の事情にまで巻き込もうとするなんて」
「おいおい、邪魔しないでくれよミハエラ。こういうのは、しっかりと順序だててやっていくのがセオリーなんだよ! 私の件はもっと後なんだから、今言っちゃ駄目でしょ!」
「……何ですか順序って、そんなのどうだっていいじゃないですか」
「わかってないな~ミハエラは~、そんなんだから、頭同様、胸も固いんだぞ~」
「……あ~そうですか、そうですか。そんなこと言うんですね。わかりました。1ヶ月くらい天界に誰も来させないようにしましたので、後はお一人で自由にやってください。私は少し里へ帰らせていただきます!」
「えっ!? ちょっ、ちょっと待って~! ごめん、ミハエラ、私が悪かったから! ちゃんと謝るから許してよ~! え~っと、それじゃ、私はこれで失礼するよ! ……ちょっとミハエラ~、少しくらい歩く速度緩めてよ~」




