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「え!? 私が……ですか……?」
「当たり前だろ! シルヴィは婆さんがやってた孤児院の手伝いで、子どもの相手をしていたし……きっとシルヴィなら、いい保育士になると思う。もちろん、なるかどうかはシルヴィの自由だけどね……」
目の前で、腕を広げて夢を語る彼の姿は、あの日憧れた彼に戻ったみたいだった。
毎日毎日雑用を押し付けられながら、ハルマハラさんの修行を続け、昼間は自分と一緒にお祖母ちゃんがやってた施設の手伝いをしてくれる。
辛いはずなのに、修行中叩かれて蹴られてぼろぼろになってお風呂を借りにくる時もあるのに、彼は子ども達の前でだけは笑顔を絶やさなかった。
そんな彼に、子ども達はなつき、彼が来るだけで子ども達は外に駆け出していった。
異世界の知識で、自ら進んで部屋の改装をしたり、子ども達にいろんな遊びを教えたりと、自分には出来ないことばっかりしてくれた。
そんなユーマさんを私は尊敬していた。
そのユーマさんが、私を必要としてくれてる。
てっきり出ていけと言われるんじゃないかと思ってた。顔を合わせた瞬間、お前の顔なんて見たくないって言われるのが怖くて、この数日間はほとんどここに居た。
ずっとお祖母ちゃんに泣きついていた。
しゃべってくれないし、反応してくれたりはしないけど、黙って私の話を聞いてくれる。
でも、それは単に私がユーマさんから逃げていただけだ。
否定も肯定もないから、お祖母ちゃんにすがっていただけだ。
それでも、お祖母ちゃんはこんな私を見捨てないでくれるんだね。
きっと、どうすればいいかわからないでいた私を見かねて、お祖母ちゃんがユーマさんをここに呼んでくれたんだと思う。
……でも、私にユーマさんの傍にいる資格なんてない。ユーマさんの優しさにすがりついて、また迷惑をかけるなんて絶対に嫌だ。
『あんたはもうちょっと我が儘言いな。自分の本心にまで嘘ついたって辛いだけさね』
……いつだったか、私がお祖母ちゃんに言われた言葉だ。なんでこの言葉を思い出したのかはわかんないけど…………ちょっとだけ勇気出たよ、お祖母ちゃん。
「……ユーマさん……私、ユーマさんの思ってるような優しい女の子じゃないですよ? 万里華さんみたいに皆に気を配れないし、ユリスティナちゃんみたいに、子どもっぽい可愛さも無いです。ハナ様みたいに頭もスタイルもよく無いです。ちょっとやそっとですぐに迷惑かけるような駄目な子ですし、きっとこれからも迷惑かけますよ? ……それでも、私を必要としてくれるんですか?」
「当たり前だ! シルヴィ、俺はお前を愛してる。……俺がここまでめげずにこられたのは、シルヴィが隣に居てくれたからだ!」
そう言った優真は、懐に手を突っ込み、一つの指輪を取り出して、泣きそうな顔になっている彼女の左手を自分の左手で握った。
「だからさ、シルヴィ。俺の隣で俺を支えてくれよ……今までみたいに、これからもさ……」
そう言いながら、優真は彼女の薬指に指輪をはめた。
指輪をはめられたシルヴィは、その指輪を興味深そうに見ていた。
「随分と遅くなったけど、俺の気持ちは昔も今も変わらないよ。だからさ……絶対に結婚式を挙げような……」
「…………はい……」
俯きながら、絞り出すように出した返事を聞き、優真は彼女に近付き、その肩に手を置いた。
顔を近付けると、彼女はそっと目を閉じた。それを見た優真は、彼女の小さく形の良い唇に、自分の唇をつけた。




