31-17
シルヴィは優真に向かって、深々と頭を下げる。その姿を見て優真の罪悪感が募っていく。
「やめてくれ……シルヴィが黙っていた理由は女神様から聞いてる。シルヴィは何も悪くないんだ……」
「違うんです!!」
いきなり自分の言葉を否定された優真は、珍しく声を荒げたシルヴィに驚いた目を向けた。
「私……ユーマさんに嫌われたくなかったから黙ってたんです。……きっと、口止めされてなくても、この話はしなかったと思います。……私が卑怯だったんです。ユーマさんに嫌われたくないばっかりに……ユーマさんを傷つけてしまいました……」
目の前で泣き崩れてしまったシルヴィを見て、俺は自分がどうしようもない馬鹿だったと痛感した。
彼女が自分を責めるタイプだと俺は知っていたはずだ。俺があんな態度を取ったから、彼女は今も自分を責めている。
この世界に保育士はない。
彼女はこの情報を万里華から知らされたと言っていた。
偶然か、万里華の意図的な発言だったかは知らないが、少なくとも、この情報を知った時、彼女は俺の夢が子ども達に慕われる保育士になることだと知っていたはずだ。
シルヴィは優しい女性だ。俺の夢が叶わないものだと知ってから、それを伝えられないことで、彼女自身も傷ついてきたのではないだろうか?
彼女は俺の口から保育士という言葉が出た時、どれ程傷ついてきたのだろうか?
そんな彼女に対して、なんで俺は「シルヴィは悪くない」ともっと早く伝えなかったのだろうか。
傷ついたのは、俺一人だけじゃない。
ああは言っているが、言いたくても言えない辛さをシルヴィだって感じていたはずだ。
彼女が傷ついたのは、俺のせいだ。
「……シルヴィ……俺さ、新しい夢が出来たんだ」
「…………え?」
涙を流していたシルヴィは、黙っていた優真がいきなりそんなことを言い始めたことで、その顔を上げた。その表情には、驚きの色が見えた。
「保育士という職業がこの世界に無いことはわかった。子どもに対しての扱いが酷すぎることもわかった。今の俺じゃ保育士になるなんて夢のまた夢だ…………でも、可能性はゼロじゃない! ホムラが俺に言ってくれたんだ。ないのなら、俺がこの世界に保育士を作ってしまえばいいと! 最初は無理だと思ったけど、俺なら出来ると彼女は言ってくれた」
「……ホムラさんが……ですか?」
「そうだ。よくよく考えてみれば、日本でだって、最初から保育士があった訳じゃない。最初は何事もゼロからだったはずだ。そこから何年、何十年、何百年と時間をかけ、今の保育士という職業が作られたんだ! だったら、俺にだってきっと出来るはずだ。俺は不老の力で年をとらないし、女神様が協力さえしてくれれば、日本の知識を仕入れてくれることも可能なはずだ。チャイル皇国やパルテマス帝国に協力をあおげば、人手も確保出来る!! 俺一人じゃ絶対に不可能だけどさ! 皆が協力してくれればこんな俺にも出来るかもしれないんだ!!」
「ユーマさん……やっぱり、ユーマさんはすごい人です……きっと出来ますよ、ユーマさんなら……」
「ああ、だからシルヴィ、俺に力を貸してくれ!」




